朝、窓の向こうの景色を見るのが楽しみな季節になった。 ロールスクリーンを上げて、雪がどのくらい積ったかをチェックする。 雪はまだ、降っては解けて、降っては解けてを繰り返しているので、苔の上にうっすらと積もる程度だけど。 ある朝いきなり目の前の世界が真っ白に染まるのは、ひと冬でたった一回きりだから、あと何回その瞬間に立ち会えるか。 絶対に、見逃したくないのである。 これはもう、まごうことなき冬の空だ。 山からのぼる朝焼けを、毎日、固唾をのんで待ち構えている。 いつからか、冬が一番好きな季節になった。 森で、気持ちがいいのは夏だけど、美しいのは断然冬。 空気がパリッとして、目に入る景色が凛として見える。 今もものすごく風が強くて、厳しいのは厳しいのだけど、その中にポツポツと喜びの種が植っている。 視界に常緑樹が一本あるだけで、うんと勇気づけられる。 ここから先は、冬ごもりだ。 2回冬を過ごしてみて、自分なりにどうすればストレスなく日々を送れるかがわかった。 まずは、極力予定を入れないこと。 ずっと雪に閉ざされているわけではないのだけど、約束をしてしまうと、その時間に合わせて車を出さなくちゃいけなくなる。 夜のうちに大雪が降って、もしも除雪車が来ないと、出られない。 前回の冬は、予定を入れてしまったばっかりに、自力でスコップで雪をかきながら車を前に進めなくてはいけないことが何度かあった。 間に合うだろうかと心配したりするのも、心臓に悪い。 だから、なるべくスケジュール帳を空っぽにしておく。 そんなわけで、真夏同様、真冬もまた読書の時間となる。 春と秋は、わりかし外でやる仕事が多いのだが、真夏と真冬は山小屋の中にこもって過ごす時間が長くなる。 しんと静まり返る中、夢中で本を読んでいると、自分が満ち足りていくのを実感する。 読みたい本は、すでに目の前にうず高く積み上げられている。 ひと冬で全て読み切れる気がしないけど。 山の上空から白砂糖を振るみたいに、毎日少しずつ山が白くなっていく。 その山に夕陽が映ると、ほんのり桜色に染まる。 そんな光景にたまたま出会えると、ものすごく得したような気分になる。 冬至に向けて、陽はますます短くなる。 私の場合は、活動できる時間が限られてくるので、効率よく動かないとすぐに日が暮れてしまう。 最近は、夕方5時を過ぎると真っ暗だ。 でも、数日前、暗闇で車を降りて外に出たら、ちょうど頭上を流れ星が通った。 夕方の5時なのに、もう真夜中かと錯覚するくらい、星がたくさん輝いている。 今日は、誰もまだ通っていない真っ白い雪道を、ゆりねと歩いた。 ただそれだけのことなのに、生きていることそのものが、ものすごく愛おしく感じてくる。 これもまた、冬の魔法かもしれない。 山小屋で過ごす3度目の冬の、はじまりはじまり。