午後、ゆりねを連れて歩いていたら、小学生の女の子がひとり、走って後ろからやって来た。 通り過ぎるときに、向こうから「こんにちは」と挨拶してくれる。 それから、「かわいいですね」とゆりねを見て言った。 「何年生?」と聞くと、「四年生」と答える。そして、 「今日は学校が少し早く終わったので、これから本を読むんです」と嬉しそうに言った。 「どんな本が好きなの?」と尋ねると、 「小説とか、絵本とか。物語が好きで。だから、走って帰ります!」と声を弾ませる。 目がキラキラしていた。 もう、本当に本当に可愛かった。 もしもこんな素敵な子に自分の本を読んでもらえたら、私は死ぬほど嬉しくて、どうにかなってしまうだろう。 一瞬、「おばちゃんもね、本を書いているんだよ〜」と言いそうになったけど、なんだか言わないでおいた。 いつか、彼女とお友達になれたらいいな。 彼女が手に取って読んでくれるような物語を書けたら本望だと思う。 なんだか、神様から最高のギフトを頂いた気分だった。 彼女が背負っていたランドセルが、美しいオリーブグリーンで、今日一日が、オリーブグリーンに染まった。 あんな子がいるなんて、この世界も、まだまだ希望がある。 ところで、ノラコヤには一般的にはあるものが、いろいろない。 冷蔵庫、換気扇以外にも、ピンポンはないし、快適なトイレも存在しない。 ピンポンは、代わりに熊よけの鈴を置いているのだが、今のところ誰も鳴らしてくれないので困っている。 この間も、ノラコヤに用事のあった人が、呼び鈴を探してノラコヤの周りを一周していた。 「ピンポンがない」と困っている。 宅配便の人も、呼び鈴がないばかりに、いきなりドアを開けたりする。 どうか、鈴を鳴らしてほしいのだが。 トイレは、過剰なサービス(温かいお湯でお尻を洗ってくれるとか)が鬱陶しくて、とにかくトイレとしての機能だけあればいいです、とお願いしたら、わざわざベトナムから取り寄せてくれた。 アメリカのメーカーが、ベトナムで生産しているもので、これだと本当にトイレだけの機能なので、コンセントに繋がなくてもよく、いたってシンプルだ。 ノラコヤでは、なるべく電気に頼らないで暮らすのが目標で、いざとなったらオフグリッドでもやっていけるように、と考えている。 ただ、トイレに関しては、やり過ぎだったかもしれない。 お尻が冷たい。 今、一番寒さが厳しいから、ここさえ乗り越えたら問題ないのかもしれないけど。 日本の最新式のトイレは至れり尽くせりで、快適かもしれないが、いざ電気の供給がストップしたら立ち行かなくなるのも多い。 それを避けたい一心でものすごくシンプルなトイレにしたのだが、さすがに無謀な挑戦だったかも、と反省している。 トイレ選びは、なかなか難しいのだ。 まぁ、とりあえず何年間かはこのトイレで辛抱してみるけど。 一階は全部土間にして正解だった。 外から来て、そのまま台所仕事ができたり、トイレに行けたりするのはとても楽ちんだ。 今日は、注文したレイズトベッドが届いた。 合計8つ分。 これで、畑を作る。 結構な作業だけど、やるしかない。 もうすぐ三連休があるから、そこで少しずつ完成させよう。…