雪の魔法
金曜日の夜から雪が降り始め、昨日は森一面が、真っ白い雪に覆われた。
なんという美しさだろう。
雪が降るのを見ているだけで、私は音楽を聴いているような気分になる。
ワルツになったり、レクイエムになったり、雪たちは変幻自在に表情を変えながら、空からはるばるやって来るのだ。
これから、森はますます美しくなる。
彫刻家の友人が来て、誕生日を祝ってくれた。
共に50歳になる。
半世紀も生きちゃったねぇ、ふたり合わせて100歳だねぇ、なんて言い合いながら、薪ストーブの前で赤ワインを飲んだ。
薪ストーブは、コタツと一緒で、寒いと、その前から動きたくなくなってしまう。
キャンドルを灯し、ゆるゆると半世紀生きたお祝いをした。
雪もそうだけど、炎もまた、見飽きることがない。
薪ストーブで燃え盛る炎を見ていると、なんだかそれだけで満たされてしまう。
産直で買ってきた里芋とさつま芋をそれぞれアルミフォイルで包んで炎の近くに置いておき、友人が持ってきてくれたパンもオーブンの中に入れて温める。
料理らしい料理など何ひとつしていないのに、これだけで立派なご馳走だった。
いい感じで酔いが回ったら、雪の舞う中、恒例の夜のお散歩へ繰り出す。
さすがにひとりだと夜の散歩は怖いので、ゲストが来ると、私は嬉々として夜の散歩にお誘いする。
手元にあるソーラーライトを消すと、本当に真っ暗闇だ。
寒いけれど、なんだか興奮しているので、寒さを感じない。
見上げれば、冗談かと思えるほどの星が輝いている。
早く、雪の原に寝っ転がって星が見たい。
翌日は、一緒に干し柿を作り、ユーチューブを見ながら90分のヨガをして、その後温泉に行って、温泉の食堂でまずはとろろ蕎麦を食べ、お湯に浸かり、何度も、「50になるのも悪くないねぇ」と言い合った。
そうそう、とろろ蕎麦を食べながら私たちが真剣に語り合ったのは、ピザに載せる具材の組み合わせについてだ。
薪ストーブでピザが焼けるという話から、じゃあ次回はピザパーティーをしようと盛り上がり、どんなピザを作るかを真剣に話し合ったのだ。
蕪と柿とチーズ、色々きのこ、山芋とおぼろ昆布、などなど、出たアイディアを友人がその場でノートにメモしていく。
最近、忘れっぽくなったので。
自分で自分が信用できないよねー、との意見で一致した。
本当に、まさか自分がそんな間違いをするだろうか、的なびっくりぽんが、この歳になると日常茶飯事になってくる。
きっと、60になろうが、100になろうが、話している内容はそう変わらないのだろう。
私と友人は今、にわかピザ研究員だ。
昨夜は、嵐のような強風だった。
山の上から、雪崩のごとく、風のかたまりがもうスピードで駆け下りてくる。
ごおおおおおおおおおお、という低い唸り声を上げながら。
恐怖を感じるほどの風が、これでもかというくらい吹き荒れていた。
そのせいで、なかなか寝付けなかった。
だけど、昨夜の風が、空をきれいにしてくれたのだろう。
今朝は、とびきりの朝。
あまりに気持ちがいいので、ゆりねを連れてドライブへ出かけた。
通りがかりのパン屋さんで、焼き立てのアップルパイとカフェオレをいただく。
50年生きてきて、最高においしいアップルパイだった。
運転しながら、山が、もうきれいできれいできれいできれいで、きれいすぎて泣きたくなった。
まるで茶漉しで粉砂糖をかけたみたいに、上の方だけが見事に雪化粧している。
この景色は、今だけしか味わない貴重なもの。
時々ふと顔を見せる富士山も、それはそれは美しかった。
山小屋に戻ったら、森一面に降り積もっていた雪が、ほぼなくなっている。
なんだか雪の魔法にかけられたみたい。
いつか、里に下りることなく、山小屋で一冬丸々過ごしてみたい。
そのためには、自分の生きる力をもっともっとレベルアップさせないといけないけど。
春一番に咲くコブシの木が、寒空の下でもう蕾を膨らませている。