野良はじめ

夏至が近づき、夜明けの時間が早くなっているせいか、ゆりねが朝4時半くらいから運動会を始める。
1階と2階で分かれて寝るようになってから、私は一切、目覚まし時計がいらなくなった。
毎朝、ゆりね時計に起こされている。

今朝も、夜明けと共に大運動会。
おそらく、朝ごはん! 朝ごはん! お腹空いたから、早く起きて!のメッセージだろう。
ソファから飛び降りては、またソファに飛び乗って、その繰り返しで、ドタバタドタバタ騒いでいる。
5時前に起きて、朝を迎えた。
少しだけ、雨が降っている。

車にせっせと苗を積み込んで、6時過ぎに山小屋を出た。
普段はこんな時間に運転することはほとんどないけど。
ひたすら山を下りて、里を目指す。

里で、野良仕事をすることにした。
森暮らしでは、シーと寒さで、庭と畑はほぼできない。
一応、庭も畑もできる範囲ではしているけど、常にシーのことを念頭に置かないといけないのだ。
だから、もっと標高の低い場所に土地を見つけた。
今度はそこで、庭と畑をやり、敷地の一角に野良仕事をするための作業小屋を建て、そこを冬の住処とする。
結構、壮大な計画なのだが、どうせいつかやるのなら早い方がいいと判断し、年明けから動いていた。

もう、八ヶ岳南麓エリアから出たくないし、行動範囲を狭くしたい。
色々思うことがあり、決断した。

今日は、野良仕事第一日目。
まずは、果樹の苗を植える。

今年ほど、梅雨の到来を待ち侘びたことはない。
できれば、翌日に雨が降るタイミングで、苗を植えたいのだ。
そうすれば、わざわざ水やりに行かなくて済む。

なのに、待てども待てども、梅雨が来ない。
このままで大丈夫なのだろうか、心配になる。
でも、もう苗たちもスタンバイしていることだし、今日、植えに行くことにした。

庭に果物のなる木があったらいいな、と前々から思っていた。
その夢を、ようやく叶えることができる。

ゆず、いちじく、さくらんぼ、プラム、あんず、ラズベリー、ブラックベリー、びわ、桑、柿、梅。
その環境でどんなふうに育つかわからないから、まずは植えてみる。

その土地は近くの小学校の通学路に面しているので、道路側はかわいいお花畑にしたいし、鶏も飼えたらいい。
本当はロバを飼いたいのだが、現実的に難しいだろうか。
妥協して、ヤギもいいかな、なんて思っている。
どこまで実現できるかはわからないけど、とにかく、少しでも多く、自分の糧を自分で育てられたら嬉しい。

無事に苗を植え終えて、山小屋から持って行ったなけなしの水を少しずつあげて、頑張るんだよ、と一本ずつに声をかける。
まだ、ミツバチアパート以外なーんにもない土地に山小屋から椅子を運び、古い梅の木の下に置いた。
枝が伸び放題の梅の木には、なぜか本当に一粒だけ、ものすごく立派な梅がなっている。

そこに座ってお茶を飲みながら、さくらんぼをつまんで種を飛ばした。
山小屋の周辺は原生林なので、私が手を加えられる部分はほんのわずかだが、里の土地は今、全くの白紙の状態だ。
庭も畑も小屋も、自分の好きなように作ることができる。
思い描いた景色が形になるまで、最低でも10年はかかるだろう。

だんだん暑くなってきたので作業は切り上げ、最後、近所の神社へご挨拶に行った。
山小屋とは真逆の里の環境だが、田んぼや畑がものすごく美しい。
晴れていれば、富士山がばっちり見える。
散歩するのが楽しくなる。

これからは、山小屋とノラコヤを行ったり来たりの生活になる。
鳥の囀りを聞きながらの朝の野良仕事は、最高に気持ちよかった。