野原の味わい

週末、里に暮らす友人と、春を満喫した。
まずは里まで友人を迎えに行き、一緒に野原で野草を摘む。
春になってようやく顔を出した新芽を摘み取るのは心が痛むものの、そのパワフルな生命力をいただいて、冬の間に体に溜まった毒を外に出したい。
田んぼの畦道でタンポポの花と葉っぱを摘み、友人のお庭(森)にあった土筆や山ウド、小さな小さな山椒の芽も摘み取る。
春蘭も出ていたそうで、そんな可憐なお花もカゴに入れた。

コゴミも見つけた。
友人は食べたことがないという。
鮮やかな緑色の、クルンと先が丸まった山菜は、私の大好物だ。
間違いなくコゴミなので、嬉しくなって夢中で摘み取る。
野原を歩きながらその日の晩ごはんを調達できるなんて、最高に幸せ。

途中温泉に寄って、夕方山小屋に戻った。
外に出したテーブルで、シードルを飲みながら乾杯する。

春の到来が、しみじみとありがたい。
再びこんなふうに外で過ごせる季節が巡ってきて、私としては感無量なのだ。
山小屋周辺の芽吹きはまだ先だけれど、よく目をこらせば、地面からはちょこちょこと球根が芽を伸ばしている。
春になったねぇ、としみじみ語り合いながら、シードルを飲む。

寒くなったので中に移動して、晩ごはんの支度。
私がコゴミをおひたしにする間、友人にはピザ用の生地を伸ばしてもらう。
そう、今夜はピザ。
トッピングは、昼間摘んだ野草たちだ。

まずはタンポポのピザを。
タンポポの花は初めて食べたけれど、思いの外癖がない。
葉っぱは、ほんのりほろ苦い。
初めてにはしては、上出来だ。

お次は、納豆ピザに挑戦する。
トマトソースはつけずに生地を焼き、ひきわり納豆とチーズをのせて再度焼き、刻んだパクチーをたっぷりとかけて食べる。
納豆とパクチーの組み合わせが、新鮮だった。
口の中が、爽やかになる。

更に、トマトソースとチーズの組み合わせに、生のルッコラをたっぷりのせる。
私はそこに、生ハムも追加した。
友人が頑張って薄く伸ばしてくれたおかげで、生地がカリカリになり、文句なくおいしい。
最後は、ドライイチジクとルッコラで、甘い味のデザートピザを楽しむ。

シードルの後、ジョージアの赤ワインを開けたら、ワインの歴史を感じさせるふくよかな味わいで、ピザにとてもよく合った。
ジョージアでは八千年も前から葡萄の栽培が行われていたそうで、ワイン発祥の地と言われている。
ピザは、みんなでワイワイ楽しみながらやれるし、生地さえ仕込んでおけば、あとはその場で作れるし、簡単でとても楽。
本当は薪ストーブで焼くのが一番だけど、温度調節が難しいから、今回はオーブンを使った。
次の冬までにはピザを極め、薪ストーブでもうまく焼けるようになりたい。

翌日は早起きし、近くの湧水までハイキングに出かけた。
私のリュックには、ケリーケトル。
友人のリュックには、昨日マーケットで買ったケーキが入っている。
ドリップコーヒーとホーリーバジルのティーバッグも、紙皿もピクニック用の木のフォークも持った。
湧き水でお湯を沸かし、コーヒーとハーブティーを淹れる計画である。
春を迎えたばかりの朝の森は、本当に静かで美しかった。

地図を見ながら、目的の湧水に到着した。
まずはそのまま水を飲んでみる。
それから、松ぼっくりや木の枝を集め、ヤカンに水をセットし、いざ火をつけようとして、私は重大なミスに気づいた。
なんとなんと、マッチを持ってくるのを忘れたのだ。

あー、と友人とふたり、涙目になる。
燃料は現地調達で大丈夫だね、と言って持ってこなかったけど、さすがに火は現地調達できない。
自分たちで一から火を起こすのは無理と判断し、湧き水でのコーヒータイムは潔くあきらめた。
これからは、軽いんだし、常にマッチを携帯しておいた方が、いざという時いいかもしれない。

それから里に戻ってお花見をし、なんとなく話の流れでお蕎麦が食べたくなって、道の駅に寄って生そばをゲットし、ついでに山菜も買って、友人宅に戻ってから、彼女が手早く天ぷら蕎麦を作ってくれる。
もう、春の恵みをこれでもかというほど堪能した。

そんなに遠出をしなくたって、近所にはまだまだ知らない素敵な場所がたくさんあるのだ。
こんなふうに、両手をあげて春が来たことを喜べたり、緻密な計画を立てなくてもサクッとどこかへ出かけられたりすることは、とても贅沢だ。
週末、思いっきり春を楽しんだら、心の中がものすごっくスッキリした。

もう、気分は夏に向かって一直線に進んでいる。
小鳥たちも、賑やかだ。