熊よ

朝起きて、ヤギ小屋に海と空がいるのを見てホッとする。
というのも、この近くで熊が目撃されたのだ。
数日前、何気なく地域の防災無線に耳を傾けていたら、そんなことが報じられてびっくりした。

調べると、目撃情報は複数あり、そのうちのひとつでは、熊が鹿を食べていた。
ノラコヤから、3、4キロ。
私でも歩こうと思ったら歩ける距離だから、時速60キロで走れる熊にとっては、ここまで来るのはお茶の子さいさいだろう。
このエリアには熊はいないとされてきたけど、とうとう、現れたか。
もう、全く他人事ではなくなってしまった。
これからは、当事者として、熊と対峙しなくてはいけない。

なんといっても、ノラコヤにはヤギがいる。
私とゆりねは屋内にいるからいいけど、海と空は常時外にいるのだ。
熊に見つかったら、間違いなく標的にされてしまう。
外で飼っていた愛犬が熊に襲われた方がいらっしゃるけど、その方のお気持ちをお察しすると、もう本当に本当に気の毒で仕方がない。

昼間は人や車の動きがあるし、私も見ていられるからいいものの、問題は夜だ。
真っ暗で、車の往来も人の気配もほとんどなくなる。
しかも、今は冬至の頃で、一日のうち半分以上の時間が暗闇に包まれるのだ。
いざ熊が来たことに気づいたとしても、助けてあげられるかどうか。

昨日から、熊対策で何か有効なものはないかと調べているが、今のところは熊鈴とスプレーくらいしか見つからない。
熊鈴は、以前、海と空の首輪につけたことがあるのだが、飲み込みそうになったので、怖くてやめた。
とりあえず、今日から、ゆりねの散歩には熊鈴を鳴らすようにしている。
見渡せば、どこから熊が出てきても、不思議じゃない環境だ。

そんなわけで、熊出没の情報を得てからは、夜、ちょっとした物音にも敏感になってしまう。
朝、二匹が無事にいてくれるだけで、心底、安堵するのだ。
熊よ、一刻も早く眠りについてくれたまえ。

それにしても、海も空も、まんまるだ。
海は、おなかがぽっちゃりしたら性格まで丸くなったのか、今日はいくらでもブラシングをさせてくれた。
以前は、ブラシを持って近づくだけで逃げていたのに。
まるで別ヤギのように、おおらかな性格になっている。
間違いなく、幸せ太りだ。

私は今、万が一に備えて、刺股か槍か金属バットを備えておくべきかどうか、真剣に悩んでいる。