氷の世界
ピンポーン、と鳴ったので、玄関扉を開けてみるのだけど、そこには誰もいない。
春ちゃんは、まるでピンポンダッシュをするように、どこかに姿を隠してしまう。
そして、また忘れた頃に、ピンポーンと鳴る。
でもやっぱり、誰もいないのだ。
春の訪れって、そんな感じかもしれない。
昨日は、森一面、氷の世界だった。
ゆっくりと冷たい雨が降った結果、木々の枝という枝が氷でコーティングされた。
まさに硬質なガラスのよう。
そうか、これが樹氷かと、私はようやく納得した。
私が樹氷と思っていたのは、樹氷の上に雪が積もった状態で、本当の樹氷はこれなのだ。
本当に素晴らしい美しさで、雪景色とはまた違う趣がある。
雪ならば地面に落ちるけれど、氷なのでそのまま枝が重たくなり、どの木の枝もお辞儀をしている。
氷の重さに耐えきれず、完全に折れてしまった枝も何本か見かけた。
中には、ものすごく立派な松の木が、幹の途中から折れてしまっている。
道路も、枝が垂れ下がっているので、ゆっくり運転しないと、窓ガラスやボンネットを直撃する。
普段と同じ枝と思ってぶつけてしまうと、大変なことになる。
なんと言っても、森全体が氷なのだ。
数日前の陽気が嘘のよう。
また冬に逆戻りだ。
一面、真っ白。
もう今シーズンはこんなに雪が降らないだろうと思っていたので用意していなかったけど、やっぱりスキーがあると楽しいかもしれない。
わざわざスキー場に行かなくても、山小屋の周辺の坂道を滑るだけで十分だ。
完璧なまでのパウダースノー。
またしばらく、山小屋にこもる日々が続くかもしれない。