春の兆し

先週は一週間ほど里で過ごした。
それまで、私が目にしていたのはほぼモノトーンの雪景色。
そこからいきなり里に下りたので、色とりどりの花の色彩がまぶしく感じる。
世界にはこんなに色がたくさんあったのかぁ、としばし呆然とした。

里に行った主な目的は、ふたつ。
ひとつは、私の作品の多くの韓国語訳をしてくださっているナミさんにお会いするため。
もうひとつは、里のご近所さんたちとのお花見会。
里の住まいの窓から、桜並木が見えるのだ。
まだ満開にはならなかったけど、親しくなったご近所さんたちと昼酒を楽しみ、春の到来を祝うことができた。

そして、再び山に戻ると、あんなにあった雪がなくなって、春の兆しが!
去年の秋に植えたスノードロップが、顔を出している。
福寿草も、黄色い花を咲かせている。
ようやく、遅い春が巡ってきたのだ。

ひかりも、冬から春に衣替え。
今は、森全体がすっぽりと霧に包まれている。
この乳白色の景色も、春ならではのもの。
美しい雪景色は、次の冬までお預けだ。

わーい、春。
待ちに待った、春が来た。
共に冬を乗り越えた常緑樹の一本一本に、ハグをして感謝の気持ちを伝えたい気分だ。
あなたたちがそばにいてくれたから、私も厳しい冬を耐えることができた。

ナミさんの背中を押したのは、私がメールに書いた一言だったという。
ソウルに暮らすナミさんにとって、日本で春を過ごし、思う存分桜を見るのがひとつの夢だった。
あれは確か、能登の地震があった、すぐ後のメール。

「本当にもう、何が起きても不思議ではない世の中のような気がします。
日本国内もそうですし、地球規模でもそうですし。
だから、やりたいことは先延ばしせず、今やらなくちゃ、という思いを強くしました。」

私は、本当に何気なく書いたつもりだったのだけど、ナミさんの胸には深いところに響いたのかもしれない。
ちょうど人生の大きな区切りを迎えたタイミングで、ナミさんは一ヶ月、東京に部屋を借りて滞在することに決めたという。

韓国で、たくさんの方に私の本を読んでいただいているのは、ナミさんが訳してくれているから、という部分がとても大きい。
誰が訳を手がけるかで、同じ作品でも全然違ったものになる。
今回、ナミさんと日本でお会いして、改めて彼女に訳していただけることを本当に幸運だと感じた。

ナミさんも、大の犬好き。
私とは日本語で会話してくださるけど、犬に対しては日本語でどう話しかけたらいいかわからないといい、ゆりねには韓国語で接していた。
その姿が、とってもかわいかった。

ナミさんは、翻訳もするけれど、ご自分でも文章を書かれて、韓国語で書いたエッセイが、日本語にも訳されている。
ものすごい稀有な才能だ。
どうか、ナミさんが、日本での春を満喫できますように!

雪が溶けたということで、いよいよ今年のお庭仕事スタートだ。
まずは、冬を越せなかった枝を集めて、薪にすべく体を動かす。
そのために、今年はいよいよチェーンソーを買おうと目論んでいる。