メーメータクシー

いよいよ、花ちゃん(車)が本領を発揮する時がやって来た。
今日は、海と空を迎えに行く日。
朝のうちにヤギ小屋の掃除をし、着いたらすぐ入れるように準備する。

T家へと車を走らせながら、なんだか嬉しくなって、じんわり涙が込み上げてきた。
海と空に会うのは、実に半年ぶりである。

話には聞いていたけど、やっぱり、海も空も確実に大きくなっていた。
全体に大きくなったというよりは、横幅が1.5倍になった感じ。
脚も太くなって、馬で言ったら、どさんこ?
まるまる太って、正面から見ると羊みたいだ。

以前はオスの空の方が一回り大きかったのだが、もう海と空の体格にほとんど差は見られない。
それどころか、海には立派なヒゲが生え、ヤギとしての貫禄が増している。
空は、ますますロバっぽくなった。

T家で再会した時は、二匹とも、「初めまして」って感じだった。
その辺りが、犬とは大きく違うところ。
私は再会を大いに喜んだけど、向こうは多分、「誰?」って感じだったと思う。
それでこそ、ヤギだ。

お茶をいただきながら、引き継ぎをする。
二匹とも、暑さは平気だったけど、急に寒くなったのにはちょっとこたえたらしい。
逆だと思っていた。
でも、体も健やかに成長して、本当にいい時間を過ごしたのだろう、というのがしみじみと伝わってくる。
空は相変わらず小学生男子で、それを冷ややかに見守る海という構図は相変わらす変わっていないらしい。
なんとか無事、二匹を車の後部座席に乗せ、いざT家を後にする。
とにかく、慎重に慎重に運転した。

最初の5分くらいは落ち着かない様子で、鳴いたりしていたけど、そのうち大人しくなり、二匹はピッタリと体をくっつけて花ちゃんに揺られていた。
まさしく、メーメータクシーだ。
嫌だ、嫌だ、と泣き叫ばれたらどうしようと思っていたけど、とりあえずそれがなかったのでホッとする。

最初は、ひとりで迎えに行くのが不安で、誰かに助っ人を頼もうかと思っていた。
でも、いずれは自分でやらなくちゃいけないし、緊急事態の時はもちろんひとりで運転しなくてはいけないので、最初から自力でやることにしたのだ。
ちょっとドキドキしたけど、なんとか無事にノラコヤまで移動することができた。

私のことは覚えていない様子だったけど、ノラコヤに着いてヤギ小屋に入ると、二匹とも、「あれ? ここ知ってるかも」という雰囲気になった。
それで、ちょっと安心したのかもしれない。

窓の向こうに、海と空がいる。
ノラコヤでの里暮らしが、本格的に始まった。