トマトの香り
朝から野良仕事。
さすがに、雑草たちが私の背丈ほどにまで成長し、恐怖を感じる。
なんだか、草の海原といった風情で、草の間を歩く時、海の中で波をかき分けながら進んでいるような気分になる。
庭の園路も草ボーボーで、どこが道がわからない。
虫除け効果の高いヨモギから作った虫除けスプレーを身体中にふりかけて作業した。
それでも刺されてしまうけど。
背中を、滝のような汗が流れ落ちる。
暑いし蚊もいるしこの時期の野良仕事は本当にハードだが、嬉しいのは、そんな中でも素敵な香りに遭遇することだ。
ノラコヤにはたくさんのハーブを植えているので、その子たちのお世話をしていると、ふと心地よい香りに包まれる。
夢中で草むしりをしていたら、草の茂みに赤い色を見つけた。
おや? もしかして、あなたはトマトですか?
地面の上で、まるで宝石のように輝いている。
手を伸ばして拾い上げると、確かにトマトだ。
そして、もっと茂みの奥の方へと目をこらすと、なんとまぁ、たくさんのトマトがなっていた。
中には虫に喰われてしまった子もいるものの、ほとんどはピカピカでムチムチの元気なトマト。
ドキドキしながら口に含むと、おいしいではないか!
当たり前だが、ちゃんとトマトの味がして、しかも、爽やかなトマトの香りもする。
私、本当にただ苗を植えただけなのに。
花芽をつんだりもしていないし、支柱を立てて仕立てたりもしてない。
もちろん、農薬も肥料もあげていない。
水も、天からの恵みのみ。
あえて何かやったことを挙げるとすれば、海と空の糞を、その辺に撒いただけ。
本当に本当にほったらかしだったのに、こんなにたくさんの実をつけてくれたのだ。
地球とは、なんと太っ腹なのだろう。
嬉しくて嬉しくて、夢中で収穫した。
私が何も考えず適当な場所に苗を植えたものだから、他の植物たちの茎が生い茂り、その間をかき分けて手を伸ばさなくちゃいけない。
それでも私は、確実に収穫の喜びを味わうことができた。
炎天下、トマトの香りに包まれて、最高の喜びを謳歌する。
私だけでこの喜びを味わうのは勿体無い。
ということで、さっそくトマトを箱に詰めて、発送作業にとりかかった。
ノラコヤからの、初出荷だ。
きっと、畑をされている方は皆さんそうだと想像するのだが、私も、きれいな実は人に送り、ちょっと傷があったりするものを自分用に残す。
箱にぎっしりと並んだ真っ赤なトマトを見て、惚れ惚れした。
一緒に、ノラコヤの庭のハーブやお花も入れて送り出す。
この恵みと喜びを、少しでも誰かと分かち合えたら、そんなに嬉しいことはない。
どうか、素敵な香りが届きますように!
山小屋に持ち帰った初収穫トマトは、さっそくトマトソースに。
いつものやり方で、たっぷりめのオイルでコトコトじっくり加熱した。
今回は、ニンニクも入れず、一緒に煮込むのはローリエだけ。
大半を送ったので、そんなに量はできなかったけど。
まだ塩も入れていないのに、ぎゅーっと味が濃くて、見事なトマトソースに仕上がった。
何も入れず、ただパスタに加えるだけでも十分なご馳走になる。
バジルとシソも豊作でたくさんつんできたから、ペーストも作っておこう。