エリザベスよ

ゆりねとオハナのいる暮らしがあまりにも幸せなので、もう一匹、新たな犬を迎えることにした。
これで、晴れて三姉妹になる。
今度の犬の名前は、エリザベスだ。
今週から、一緒に暮らしている。

なーんていうのは、真っ赤な嘘で、ゆりねとオハナを、つい先日、トリミングに連れて行ってきたのだ。
ゆりねは、3ヶ月弱に一回、できれば2ヶ月半に1回はトリミングが必要で、そうしないと、本当にもしゃもしゃになってしまう。
そのタイミングに合わせ、オハナも一緒にお願いした。

毛が伸びるスピードはオハナの方がだいぶゆっくりなのだが、私がブラッシングを始めるのがちょっと遅かったのと、オハナの避妊手術で10日くらいブラッシングができなかったことが災いし、すごい毛玉ができていた。
スリッカーブラシでもなかなかとれず、トリマーさんに助けを求めた次第である。

オハナの毛玉に、トリマーさんもびっくり仰天。
世にいうゴールデンデュードルのオハナには、スタンダードプードルとゴールデンレトリーバー、二つの犬種の毛質が混ざっており、表面を覆うスタンプの毛の下に、もう一層、ゴールデンの短い毛が生えていて、ダブルコートになっている。
スタンプだけでもゴールデンだけでも、これほどのすごい毛玉にはならないらしい。

足も尻尾も胴も、皮膚が見えないほどのフェルトみたいな硬い毛玉に覆われており、放置すれば、皮膚病などの原因になるとのこと。
お散歩で外に出て雨に濡れたりした場合は、毎回、ドライヤーで乾かさないといけないと言われ、呆然となった。
無理、そんなの、絶対に。
とにかく一度、全体を短く切って毛玉を取り除きましょう、ということになった。

トリマーさんから、終わりましたの連絡を受け、夕方、犬たちを迎えに行く。
ゆりねはすっかりかわいい姿になっていたが、オハナがいない。
どこ?
一匹、やけに吠えている犬がいるけど、あれはよその犬だしなぁ。
と思っていたら、やけに吠えている犬が、どうやらオハナらしかった。
あぁ、びっくり。
私が迎えに来たので、珍しく吠えていたのだ。

こんなに毛が生えてましたよ! と、トリマーさんが大きなゴミ袋を持ち上げる。
羊か? というほどの、本当にすごい量の毛で、ビニール袋がパンパンに膨らんでいる。
しかも、重たそう。
こんなに大量の毛を、オハナは身につけていたのだ。きっと、重たかったに違いない。
刈ったオハナの毛で、ちょっとした子どものセーターが編めそうである。

山小屋に連れて帰っても、なんだか別の犬を預かっているような気分で、オハナが視界に入るたびに、一瞬、「誰?」と思ってしまう。
しかも本人、物理的に身軽になったのか、動きがたいそう機敏になった。
性格までなんだか変わって、まるで別犬なのだ。
今まで段差があって上がれなかった私のベッドにも、ヒョイッと上がれるようになっている。

これはもう、脱皮したと思った方がいいだろう。
サナギのオハナが、脱皮して、蝶になったのだ。
今までのオハナとはまるで違う容姿の犬がオハナの中に埋もれていたと思うと、笑ってしまう。
オハナの大変身は、予想を遥かに超えていた。
てっきりオハナは三枚目キャラだと思っていたのだけど、こうして見るとめっぽう美人で、賢そうな犬に見える。
こうなったら、名前もエリザベスとかに改名した方がよろしいような。
でも、オハナはやっぱりオハナがいいか。

身軽になったから、というわけではないけれど、普段ゆりねは2階に、オハナは1階にいて、両者が顔を合わせるのは夕方のお散歩の時だけ、というのはあまりに接点がなさすぎるから、昨夜から、私がいる時間帯は、オハナを2階に上げるようになった。
晴れて、一家団欒である。
まだまだ自力での階段の上り下りはできないので、私がハーネスの持ち手を支える形で移動している。
この半年間、幾度も華麗な変身を遂げてきたオハナだから、そのうち、階段も難なく上り下りできるようになるかもしれない。

2匹とも飽きてすぐにそっぽを向くようになったおやつ(犬用ガム)だったけど、その辺に置いてあったのをオハナが見つけ齧っていたら、それ、私のなんだけど、という感じでゆりねがしれっと取り上げ、ゆりねがガムから離れると、今度はそれをオハナが取り戻して口に含む。
どちらの犬も淑女なので表立っていがみ合ったりは決してしないが、静かな攻防戦を繰り広げている。
2匹とも、それほど好きではないはずなのに、相手が齧っていると、自分も齧りたくなるのだろう。

ゆりねが、お姉ちゃんの特権とばかりに、オハナに見せつけるようにガムを噛む姿を見て、自分の子ども時代を思い出した。
私も、姉たちが得意げに食べているおやつを見て、自分ではそんなに好きではないはずなのに、急に自分も食べたいと駄々をこね、大人たちを困らせていたっけ。
なんなんだろう、あの心理。
犬も同じだから笑ってしまう。

久しぶりに、森に光が差している。
ずっと、雨ばかり降っていたから、余計に、青空が目に染みる。

それにしても、この変身ぶり。さすがである。