山羊語について

今日は、祝日。
朝イチで新聞を読んでから、野良仕事に明け暮れる。
お庭の植物たちのお世話をしながら、メェたちはハミハミタイムを満喫。
昨日雨で、彼らにとっては試練の一日だったので。
海も空も、ご機嫌でハミハミしている。

少し前から、係留をやっている。
これまでは、ゆりねのリードなどをいくつか結んで、山羊小屋の柱に繋いで草を食べさせていた。
でも、だいぶ草がなくなってきたので、新たな草場を開拓しなくてはならない。

係留は、地面に長い杭のような棒を打ち込んで、そこに繋ぐ。
そのまんままっすぐな棒だと、外れてしまう恐れもあるので、私は下の方がスクリュー状になっているのを選んだ。
イメージとしては、大きなワインオープナー。
それを、クルクルと回しながら地面に打ち込むと、ちょっとやそっとでは外れない強度になる。
そこに、係留用の長いリードを繋いで放牧する。
あまり長すぎると事故を招きかねないので、3mのリードにした。
これだと、半径3m分の草が食める。

どの雑草もくまなく食べてくれればありがたいのだが、結構好き嫌いが激しい。
特に、わーっと草が生えている場所だと、好きな草だけをつまみ食いする。
そして、もっと外へ、もっと外へ、なぜだか届かない場所の草を食べようとする。

午前中庭仕事をしていたら、トラックやら何やらが来て、お向かいさんの敷地の木の伐採を始めた。
どうも、ノラコヤに電気を通すための伐採らしい。
木には申し訳ないが、仕方がない。
山羊がいるので、枝を分けて欲しいとお願いしたら、喜んでくださった。
「ほら、この柔らかい葉っぱがおいしそうだよ」
と、作業の方もわざわざ新緑の芽吹いたばかりの枝を運んできてくださる。
ありがたい。
これで当分、メェたちにお腹いっぱい食べさせることができる。

葉っぱをメェたちに食べさせたら、枝をお迎えさんに戻し、その枝は薪にされるという。
そうやって、無駄なく循環していくのが、とても気持ちいい。

ただ、今日わかったのだが、メェたちは決して新緑が大好き、というわけではないのだ。
人間の目にはおいしそうに見える新緑だけど、どうも彼らは、柔らかい葉っぱよりも硬い葉っぱ、それよりも更に枯葉の方が好きそうなのだ。
草ボーボーの原っぱより、なんだかちょっとしょぼい感じのところの草の方が、嬉々としている。
山羊は、わからないことだらけ。
だから面白いのだけど。

山羊は、犬の次に人との付き合いが長いという。
撫でれば犬みたいに体をこすりつけてきたりするけど、犬との圧倒的な違いは、人間の僕になどなるもんか、という明らかな意思表示だ。
犬は、人の役に立つことを自らの喜びとする面があるけど、山羊に至っては、人の言うことなど聞いてたまるか、という態度があからさまだ。
融通のきかなさで言ったら、猫以上かもしれない。
人間に対しては、常に「ふん」という態度を貫いている。

言葉も、なかなか難しい。
犬の場合は、キュゥキュゥ甘えたり、ワン!と興奮したり怒ったり、グゥゥゥゥと不満を表現したり、声自体に表情がある。
でも、山羊の場合は、全てがメェの一語しかない。
おいしい!もメェだし、ちょっとこっちに来て!もメェだし、楽しい!もメェだし、餌がなくなってるんだけど!もメェ。
とにかく、全部がメェなのだ。
だからこっちは、どの意味のメェなのかを、ちゃんと理解しなくてはいけない。
緊急事態を訴えているのか、それともただ、私今幸せだわ〜 と呟いただけなのか、こちらが判断しなくてはいけないのだ。

海と空が来てほぼ一月が経ち、だいぶ山羊語が聞き分けられるようにはなってきたけど。
山羊語をマスターするまでには、まだまだ時間がかかりそう。

それにしても、海と空がいる風景は、なんて美しいのだろうと惚れ惚れする。

海は、典型的なツンデレちゃんだ。
メェメェ言っているので見にいくと、そっぽを向いて逃げようとする。
そのくせ、また離れると甘えた声で呼び止める。
気位が高く、頭も良くて、記憶力も優れている。
なかなか手強い山羊だ。

その点、空は単純明快。
まさに、小学生男子そのもので、落ち着きがなく、常に何かを探している。
お調子者で、よく食べる。
空なので、クゥと呼ぶこともあるけど、クゥは「食う」でもある。

二匹は、ものすごく仲が良い。
餌の時だけは殺気立つものの、基本は常にピッタリとくっついて離れない。
まるで、一心同体の生き物というか、海と空二匹で一匹のように感じる。
確かに、山羊を一匹だけで飼うのは気の毒だ。
海と空は、常に行動を共にしている。
ちょっとでも離すと、お互いメェメェないて収拾がつかない。

本当は、このままずっとノラコヤにいて欲しいんだけどな。
もう、彼らと過ごせる時間の半分が過ぎてしまう。

ゆりねとの距離は、いまだに縮まらない。
毎回ゆりねはものすごく興味を示し、外に出るたび彼らに近づこうとする。
でも、ある一定の距離以上は近づけない。
大型犬に遭遇した時と同じ態度で、遊びたい、でも大きくてこれ以上近づくのは、ちょっと怖い、という感情がせめぎ合うらしいのだ。
海と空は、そんなゆりねを柵越しに見て、短い尻尾を振っている。

山羊も、嬉しい時は尻尾を振る。
パタパタ、パタパタ。
海も空も、もちろんゆりねも、そして庭の植物たちも、みんなみんな、本当にかわいい。