小さなお守り
秋だ。
風が吹くたび、はらりはらりと葉っぱが落ちてくる。
ブルーベリーに始まった果物リレーは、桃から葡萄へ、更に葡萄から林檎へとバトンが渡されつつある。
林檎の顔を見ると、秋の気配をますます強く実感する。
今は、葡萄が真っ盛り。
さすが、山梨県。葡萄がおいしくて、おいしくて。
見ると、お財布の中身も気にせずに、つい連れて帰ってしまう。
体調がものすごく悪かった時も、葡萄なら食べられた。
わざわざ皮をむかなくてもいいし、好きな量を好きな分だけ口に含むことができる。
葡萄って、体が弱っている時の強い味方だ。
そういう意味では、苺やさくらんぼも、お見舞いには持ってこいだ。
昭和の時代は、それがバナナだったのかもしれない。
あと、今回ダウンしていた時、むしょうに桃の缶詰が食べたくなった。
生の桃ではダメで、欲していたのは甘いシロップにどっぷり浸かった缶詰の桃。
これからは、常備しておくといいかもしれない。
誰かがそばにいて甲斐甲斐しく看病してくれるならいいけど、そうじゃない場合は、林檎とかをお見舞いにいただいても、正直、皮をむく気力がない。
パイナップルなんて、絶対に無理だ。さばけない。
最近、私の周りで体調を崩している人がたくさんいる。
というか、心身共に健康な人の方が、少ないかもしれない。
そりゃ、そうだ。
連日の猛暑、雷雨、台風、地震。気が休まる時がないのだもの。
今は、ものすごく過酷な時代だと思う。
その日を生きるだけで、精一杯。
健やかでい続けるのは、本当に本当に大変なことだと思う。
だから、体調や心のバランスを崩して疲れている人に、私はせっせと葡萄を送っている。
葡萄なら、それほど痛むのも早くないし。
そのくらいしかできないけど。
これからは、自分で自分をいかにケアするかが、ますます重要になってくる。
人に頼っていては、追いつかない。
体調が回復するのを待ち、今日は朝からサイン。
来月、新刊が出るので。
製本前の紙だけを送ってもらい、山小屋でせっせと自分の名前をサインする。
窓の向こうには、朝の光に耀く森。
森は、本当に笑うのだ。
特に、雨上がりの朝は、あふれんばかりの笑顔になる。
タイトルは、『小鳥とリムジン』。
どうか、この物語を必要とする人の手に届きますように。
誰かさんにとっての、小さなお守りになれますように。
そんな願いを込めながら、一枚一枚の紙にサインする。
紙もまた、木からの贈り物だ。
なので、もしも本屋さんで縁あってサイン本を手にしてくださった方は、どうか、山小屋からの朝の光を感じてくださいね。
もう、いくつめの小説になるのか、自分でもわからない。
物語を書いて生きていけるなんて、本当に夢のような現実だ。
ありがたくて、ありがたくて、心の泉から感謝の気持ちがあふれてくる。
午後は、夏に大きく育ったタイムを収穫した。
植物たちが日々健やかに成長する様子を見られるのが、私にとっては大きな喜びだ。
この春、いろんな種類のタイムを植えて、私はすっかりタイムのファンになった。
まずは、タイムと真剣にお付き合いしてみよう。
何が正解か全くわからないけれど。
収穫したタイムを、早速煮出して、ハーブバスを楽しむ。
本当にいい香り。