光り輝く
3年前の今頃、私は毎朝、ベルリンのアパートの出窓に座って、東の空を見つめていた。
朝陽があまりにきれいで、その姿を1秒たりとも見逃したくなくて、太陽が出るのを待ち伏せていた。
ベッドから出る時はまだ真っ暗で、前の通りを走るトラムには、ほとんど人が乗っていなかった。
けれど、ひとたびお日様が顔を出すと、空が見事な茜色に染まり、それはそれは美しかった。
その光を目にするだけで、なんだか勇気づけられた。
ちょうど、人生の岐路に立って、大きな決断をするところだった。
数日前、山小屋に来た。
季節はジャンプするように初冬になっていて、この間の空とは明らかに違う色をしている。
一枚、また一枚と梢からは葉っぱが落ち、あんなにわさわさと茂っていた木の葉が、姿を変え、ものの見事に地面に広がっている。
枝は、すっかり裸木になった。
朝、必ず外に出て、森に向かって手を合わせるのだけど、その時にチラリと見る温度計は、氷点下をさしている。
でも、空気が乾燥していて、空はどこまでも澄み渡って清々しい。
この景色、確かに知っているぞ、と思って記憶を辿ったら、簡単にベルリンの冬の空に行き着いた。
3年前、待ち伏せていたあの朝焼けと、全く同じ色が広がっている。
あの時すがるような思いで拝んでいたのと、おんなじ太陽だという当たり前の事実に、ハッとした。
3年前のあの頃、まさか自分が山小屋で暮らしているなんて、全く想像すらしていなかった。
人生って、本当に何があるかわからないなぁ。
冬は寒くなるけれど、その分、空がきれいだ。
森の緑は減ったけれど、その分、視界が開けた。
山小屋の2階の窓から、今まで見えなかった八ヶ岳の姿が見える。
更に、夜になると満天に広がる星が見られるようになった。
何事も、そういう仕組みなのかもしれない。
失った物があれば、新たに手に入るものがある。
星は、まさに光り輝く。
太陽も、光り輝く。
あの美しい朝焼けの空に再会し、それだけでご機嫌になれる自分がいる。