『食堂かたつむり』

本、特に物語を読むことは、その作者と、旅をするようなものだと思います。
ピクニックのような小旅行もあれば、大きなスーツケースを引き連れての、長旅もあり。
同じ列車に乗っていても、右と左では全く景色が違ったり。
夜、共に同じベッドで眠ったり。
本を読むことは、作者と読者の、一対一の密接した関係です。

気がつくと、物語を書く人になりたい、と思っていました。
その思いは、強くなったり弱くなったり、時に濃度を変えながら、それでも絶えず、私の胸にくすぶっていました。
書くことは、私にとって、永遠に慕い続ける恋人のようなもの。

苦節十年、ようやくのデビュー作です。
明かり一つない長いトンネルの中で、けれど優しさや愛情を持って接してくださったみなさんに、心から感謝します。

また、このような最良の道を切り開いてくださったポプラ社、吉田元子さん。
吉田さんとの出会いは、私にとっての宝物です。
吉田さんに声をかけていただかなかったら、私は書くことを諦めていたかもしれません。

そして、優しいけれど力強さのある見事な装丁をしてくださった大久保伸子さん、
日なたの匂いのする素敵な絵を描きおろしてくださった、大すきなイラストレーター・石坂しづかさん、
本当にありがとうございました。
このような美しい本を手に作家としてスタートラインに立たせていただけること、本当にありがたく思います。

ご多忙の中、快く本を読んでくださった、スピッツの草野マサムネさん、ポルノグラフィティの岡野昭仁さんにも、心からのお礼を言いたいです。
お二人からいただいた帯の言葉、じんわりと胸に響きました。

宣伝にご尽力くださった、アミューズの大川弘美さん、
その他、直接お会いすることはありませんでしたが、校正者さん、印刷所の方、ポプラ社の宣伝・営業担当のみなさん、アミューズ関係者、応援してくださる書店さん、関わってくださったすべての方に、感謝の言葉を贈ります。

これから私は、『食堂かたつむり』という一冊の本を胸に、一歩ずつ、作家としての道を歩んでいきます。
山あり谷ありの茨の道ですが、全身全霊で料理を作った主人公・倫子のように、私も、出会えてよかったと思っていただけるような作品を目指し、日々、精進していきたいです。

最後に、人生の何億分の一かわかりませんが、旅の相手に選んでくださる読者のみなさんに、心からの感謝の気持ちを伝えます。
本当にありがとう。
『食堂かたつむり』が、あなたにとって、少しでも生きる糧になれれば、幸いです。

いつかまた、次の作品でお会いできることを祈りながら。

2008年1月
小川糸