『つるかめ助産院』
生きることは辛いこともあるけれど、それでも生まれてよかったと思えるような物語を書きたくて、精一杯書きました。
今まででもっとも大きな「陣痛」を経験しましたが、その分、愛おしさもひとしおです。
私と主人公「まりあ」の境遇は違いますが、これは、私自身の物語と言えるのかもしれません。
私の魂の欠片みたいなものが、たくさん入った作品になりました。
今回、作品を共にしてくださった集英社の伊礼春奈さんに、心からの感謝を申し上げます。
伊礼さんが、心地よい環境を作ってくださったおかげで、自分の呼吸に合わせた自然なお産をすることができました。
途中、くじけて、「(この作品を)最後まで書けるかどうかわかりません」と弱音を吐いてしまいましたが、その時にくださった、「信じています」という短い一言に、どんなに背中を押されたかわかりません。
この作品が、伊礼さんにとって、担当する初の作品となることを、本当に嬉しく、誇りに思っております。
本当にありがとうございました。
また、渡名喜島への取材も同行してくださり、俯瞰的な立場から折に触れてアドバイスをくださった羽喰涼子さん、『小説すばる』掲載に際して、新入社員でありながらも奮闘してくださった栗原清香さん、お二人にも本当にお世話になりました。
感謝の気持ちでいっぱいです。
そして、「まりあ」にとっての「つるかめ先生」とも言うべき、私にとっての心の親方、辺銀愛理さん、本当に本当に、どうもありがとう。
愛理さんに出会っていなかったら、この作品はきっと生まれていなかったと思います。
たくさんの感謝の気持ちを込めて、この本を贈ります。
この作品を執筆中、私の数少ない友人達が、続々と身ごもりました。
そして、みんな、無事に身二つとなりました。
私の知らない「妊娠」という未知なる世界については、彼女達がざっくばらんに教えてくれました。
本当に感謝しております。
帯にすばらしいコメントを寄せてくださった、女優の宮沢りえさん、生物学者の福岡伸一さん、
今回もまた、美しい装丁をしてくださった大久保伸子さん、写真の鳥巣佑有子さん、刺繍のみずうちさとみさん、
至らぬ点を多々カバーしてくださった校正者の皆様、
集英社の宣伝や販売に関わってくださったすべての方々に、
心からのお礼を申し上げます。
自分一人でいたらわからないけれど、誰かのそばに行って手を差し伸べることで、自分自身が他の人にとっての温もりになれる。
これは、まりあが南の島で少しずつ体で気づいていったことですが、『つるかめ助産院』も、読んでくださった皆様にとって、そんな存在になれたらいいな、と思っています。
最高に痛かったけれど、本当に気持ちいい「出産」でした。
この作品を書けて、今、すごく幸せです。
『つるかめ助産院』を読んで、少しでも、今ここにいる幸福を、実感していただけましたら、幸いです。
また次の作品で、読者の皆様とお会いすることができますように!
2010年 師走
小川糸