『ファミリーツリー』

この作品は、私にとって、とても意味のある一冊のような気がします。
『食堂かたつむり』でデビューさせていただいたのが去年の一月、まだ二年も経っていないのが信じられないくらい、濃密な時間を過ごしてきました。
そんな中で、今、『ファミリーツリー』を発表できることは、とても幸せなことに感じています。

後ろを振り向かず、前だけを見て書きました。
いわゆるプレッシャーという意味では、前作の『喋々喃々』とは比較にならないほど、大きかったように思います。
書いている間は、とにかく夢中でした。
意識が朦朧とする中ゴールを切った、マラソンのようでした。

私の中でも、たくさんの葛藤があり、悩みがあり、編集の間は本当に苦しかったです。
作品と共に、心中してしまいたいような気持ちになる時もありました。
でも、その苦しみの中から抜け出せた時、この作品が、私にとってかけがえのない「わが子」になりました。
今は、親バカかもしれませんが、愛しくてかわいくて仕方ありません。

今回も、そんな私を沿道から励ましてくださったのは、ポプラ社の吉田元子さんでした。
吉田さんには、いくら感謝しても、感謝しきれません。
4月頃、最初に原稿をお渡しした時、吉田さんはこの作品を「美しい野生の馬」のようだと言ってくださりました。
要するに、暴れ馬だったのだと思います。
それを、数ヶ月かけて、今度は吉田さんと二人三脚で、少しずつ、少しずつ、飼い慣らし、乗り心地のよい馬になるよう努めてまいりました。

吉田さんには、本当に苦労をたくさんかけてしまいましたが、私はこの作品を吉田さんと共に作ることができて、本当に嬉しいです。
きっと、担当してくださったのが吉田さんだから、この作品を書くことができたのだと思います。
本当にありがとうございました。

また、作品にこんなにも美しい衣装を着せてくださった、装丁の大久保伸子さん、イラストの新目恵さん、本当にありがとうございました。
何度見ても、本の奥から風が吹いてくるように感じます。

そして、スケジュールの調整など、私がもっとも苦手とする分野の窓口となってくださったアミューズの大川弘美さんも、本当にありがとうございました。

この作品を書けたことで、私はとても自由になれた気がしています。

『ファミリーツリー』が、読者の皆様の心のど真ん中に、ジェット機みたいにびゅーんと飛んでいくことを願ってやみません。

この本を手に取ってくださるすべての方に、心から感謝申しあげます。

2009年11月
小川糸