束の間の
鎌倉へ行ってきた。
わんこたちをノラコヤに留守番させて行くので、朝一番の電車に乗り、その日のうちに帰ってくるという弾丸日帰り出張である。
フランスとドイツの合同テレビ局であるArteが、『ツバキ文具店』シリーズに関する番組を制作するので、私も鎌倉までインタビューを受けに行ったのである。
『ツバキ文具店』が、こんなに世界各地で翻訳されるとは、全く想定外で驚くばかりだ。
ヨーロッパやアジアだけでなく、普段はまずないフィンランド語やルーマニア語、はてはインドでも訳された。
ポッポちゃんが、世界へ羽ばたいている。
その後ろ姿を、私はまぶしい気持ちで見つめている。
途中、移動で江ノ電に乗った。
久しぶりに乗ったら、外国からの観光客で車内がすし詰め状態だった。
噂には聞いていたけれど、まさかここまですごいとは。
うわぁ、途中下車して稲村ヶ崎温泉に入りたい、とか、鎌倉高校前のホームから海が見たい、とか、小動神社へ行く途中のカフェでお茶したい、とか色々楽しみたくなったけど、時間の限られた弾丸出張なので、そんなのんびりする余裕はない。
ただ、江ノ電の車窓から、人と人の背中や頭越しに、ほんのちょっとだけ海が見えた、それだけでも鎌倉まで行った甲斐があったかもしれない。
このところずーっと森にこもっていたので、むしょうに海が見たい気持ちになっていたのだ。
キラキラ光る海を見たら、心がスーッとした。
束の間の海を見て、いろんなことを思い出した。
無事に仕事を終え、駆け足で帰路に着く。
正直、一分でも一秒でも早く帰りたかったので、電車の乗車時間を最短にしたため、行きと帰りで合計9つの電車を乗り継いだ。
夕方6時過ぎに駅に着くと、もう辺りは真っ暗闇。
小さな駅前にロータリーとカフェが一軒だけあって、その様子がなんだかヨーロッパの片田舎の雰囲気を漂わせている。
駐車場に停めていた車に戻り、途中の温泉に入って体を温める。
鎌倉にいる間から、ずっと温泉に浸かりたくて浸かりたくてたまらなかった。
こうして毎日温泉に入って、心身の疲れや汚れを落とせることは、本当に幸せなことだとしみじみ感じた。
ゆりねとオハナが待っているので長湯はできなかったものの、それでも冷えきっていた体をちゃんと温めてから、ノラコヤへ戻ることができた。
オハナが来てくれたことで、ゆりねのお留守番に対するハードルは、少し下がったかもしれない。
私たちは、本格的な冬の到来がやって来るまで、山小屋での生活を続けるだろう。
このところ雨が続くので、なかなかお散歩に出られないのが悩ましい。
今は、雨上がりの森が、白い霧に包まれている。
ぼちぼち、最低気温が1度とか2度とかの予報も出始め、もしかすると明日の朝、チラッと初雪が見られるかもしれない。
今シーズン最初の雪がいつ降るか、待ち遠しいのだ。
山小屋のお隣さんが、とてもいい位置に鳥の餌箱を吊るしてくれたおかげで、私も2階の窓からバードウォッチングを楽しませてもらっている。
ありがたい。
ほぼ毎週末、東京からご夫婦でやって来て、ずっと外で庭の手入れをしている。
完全なる、お庭中毒だ。
最初の年は、自分もそうだったら、気持ちがよくわかる。
庭を持って土に触れる喜びを知ってしまうと、幸せ過ぎてやめられなくなってしまうのだ。
あの頃植えた植物は、シーに食べられたり寒さにやられたりして、もうほとんど残っていないだが。
でも、お隣さんは土に触れている行為そのものを楽しんでいらっしゃるので、それでいいのではないかと思う。
何事も、自分で経験しないと、だ。
里の方も寒くなってしまう前に、ノラコヤの庭に残っている薬草たちを摘み切ってしまいたいのだが、いかんせんこの秋は雨が多くて、なかなか作業が思うように進まない。
初夏に苗を植えたホーリーバジルがここに来て急に大きくなり、先日、乾かしたのをお茶にして飲んだら、思いの外おいしかった。
来年は、もっと本格的にホーリーバジルを植えよう。
それと、切り花用の植物も増やしたい。

今朝、新聞を読んでいてふと思った。
今流行りのAIによって最適解に至るのは、山の頂上にヘリコプターからおろしてもらうようなものだと。
確かにそれでも頂上からの絶景は楽しめるだろうけど、そこに、登山の醍醐味は微塵もない。
それと、私が大事にしている効率とは、全く意味が違うのだ。
私にとっては、自分の足で苦労して一歩一歩踏みしめながら頂上に至ることこそが、効率がいいのである。
そうすることで、多くの経験や知恵が生まれ、これからの人生に役立てることができるもの。
ヘリコプターで頂上に下ろしてもらうだけだったら、それがちっとも身につかない。