光人間

朝の光があまりにも美しかったので、今日も一日、山小屋で過ごすことにした。
夏、一番の贅沢は森から一歩も出ないこと。
そうすれば、移動の時間もなくなるので、リラックスしたままのんびりと一日を過ごすことができる。
これぞ、夏の醍醐味だ。

少し前、共通の年上の友人の命日に、彫刻家の友と山小屋でお泊まり会をした。
その時、友が、面白いエピソードを聞かせてくれた。
何年も前になるが、友人が夫とジュラという名の犬(ゴールデンレトリバー)を連れて、軽トラで東京へ行き、新宿の交差点で信号待ちをしていた時のこと。
ジュラが、一点を見つめたまま固まり、目が釘付けになったのだという。
その視線に気づいた友が、ジュラの視線を追ったところ、隣に停まっているクラシックカーに、背筋をピンと伸ばした美輪明宏さんがいらしたというのだ。
その時のジュラの目の輝きが、忘れられないと友は言った。
ジュラは、まるで神々しい何かを目の当たりにしたかのような圧倒された表情で、静かに息を飲んで美輪明宏さんを見つめていたらしい。

「ジュラがそっちを見なかったら、私たちは美輪明宏さんに気づくことはなかったよ」
友人は言った。
美輪さんが亡くなって、まだ日が浅かった。

なんでそんな話になったかというと、その頃、ちょうどオハナがごはんを食べなくなって途方に暮れていた時期だったのだ。
それで、オハナのことを話題にする中で、
「そういえば、オハナがうちに来てまだ間もない頃だったんだけど、完全に一回、オハナ、私のことを忘れたというか、私がノラコヤに行っても、わからなかったんだよ」
という話をしたからだ。

その時、私はものすっごく慌てていた。
一度ノラコヤを出て、担当編集者と会うため近所のお店まで歩いて出向いたものの、ハプニングがあって急ぎ足でまたノラコヤに戻ったのだ。
そうしたら、オハナがまるで知らない人を目にするかのような態度で、本当に、私だとわからなかった。

「その時、サングラスをかけていたからかなぁ」
私が言うと、友が首を傾げた。
そして、しばらくしてから、友が言った。
「わかった、その時の糸ちゃんは、糸ちゃんじゃなかったんだよ!」
そう言われて、あ、確かに、と私は思った。
「ふだんの糸ちゃんのオーラと、全然違うオーラが出てたんじゃない?
だからオハナは、別人だと判断したんじゃないかなぁ。
犬ってさ、多分そういう気を感じる能力があるんだよ!」
そして、うちのジュラもさぁ、と続けて、クラシックカーに乗る美輪明宏さんに遭遇した時のエピソードを聞かせてくれたのである。

なるほど。
言われてみれば確かにその時の私は相当焦っていたし、殺気立っていたかもしれない。
ふだんの私とは、外見は同じでも、そういう目で見れば違っていた。
で、その視点で振り返ると、オハナが私の元に来たばかりの頃、車道に出ると一切歩けなくなるのに、ノラコヤの庭の小道だけは歩くことができたことにも納得できる。
オハナは、車の危険性というか凶暴性を気で感じ、逆に私の庭には、優しい何かを感じて安心して歩けたのかもしれない。

単なる不思議ちゃんに思えるオハナの行動も、オハナの中では、こうでこうでこうだからこう、という明確なルールみたいなものがあるのかも。
今はまだ、私にその流れが理解できていないだけで。

夕方、ノラコヤの湯船に浸かって森の木々を見上げながら、もう5回目の夏を迎えたんだなぁ、としみじみ思った。
一時はあらゆる面ですっからかんになった自分だけど、この5年の間に、ノラコヤができて、植物たちとの関係が深まり、オハナも来て、冬にはヤギの海と空もいる。
5年の間に、予想もしなかった大切なものがこんなにも増えた。
なんて喜ばしいことだろう。

美輪明宏さんは、きっと、生きながらにしてすでに光になっていたのだと思う。
そういう人は、死んでも生きているし、生きていても、もうこの世に肉体が存在しなくても、あまり変わらないような気がする。
美輪さんの存在に真っ先に気づいて目を輝かせたジュラも、もう天国だ。
犬も、美しい光に出会うと、心から感動すると知って、また一段と犬を素晴らしい生き物だと感じるようになった。

ところで、まさか自分がお会いすることはないだろうと思っていた仏教界の長老、アルボムッレ・スマナサーラさんと、今度、対談をすることになった。
スマナサーラ長老は、スリランカ上座仏教界の長老で、私が長らく続けている「慈悲(慈しみ)の瞑想」の提唱者だ。
この瞑想に、どれだけ救われたことか。
きっと、スマナサーラ長老も、光人間なのではないかと想像する。

せっかくの機会ですし、無料のイベントでもありますので、ご興味ある方は、ぜひぜひいらしてくださいね!
詳細は、「お知らせ」をご覧くださいませ。

今年初の試みとして、海と空がT家に移った後、ヤギ小屋にひまわりの種を植えた。
これは、冬になったら、山小屋にやって来る鳥たちの餌にしようと思っている。
そのひまわりが、だいぶ大きく育ってきた。
窓辺に巣を作った鳥は、相変わらず、卵を温めている。
どうやら、シジュウカラらしい。