DIY
オハナが私とゆりねの元へやってきて、今日でちょうど一週間。
私とゆりねにとってはもちろんだけど、オハナにとっては天と地がひっくり返るほどの、激動の一週間であったことは間違いない。
この一週間で、本当に本当によく頑張った。
オハナは今、必死で脱皮して、新たな世界で生きようともがいている。
よく考えれば、それまで名前もなかったわけで、飼い犬としては、まだ7日しか経っていないのだ。
私はこれまで、ゆりねを犬としての当たり前と思っていたけれど、とんでもなかった。
散歩も、アイコンタクトも、人から教えてもらわなければ、できない。
最低限、食餌は与えられていたし、屋外とは言え、屋根のある場所にはいたかもしれない。
けれど、人がそうであるように、動物もまた、愛情というものが必要なのだと切実に思う。
特に、人との付き合いの長い犬にとって、人からの愛情は不可欠だ。
オハナは、一対一で人から愛情を注がれるのは初めての経験なので、最初はどうしていいのかわからないのだろう。
お散歩ができない、つまり歩けないというのは、飼う側にとってはかなり難易度が高い。
歩けないから、外で排泄ができない。
運動できないから、ストレスが溜まる。
夜になると、オハナは夜鳴きと遠吠えを繰り返す。
体が大きいので、声も凄まじい。
私とゆりねは、寝不足になる。
寝不足がピークだった昨日は、空模様(雨)と相まって、なんだか育児ノイローゼになりそうだった。
オハナを笑顔にしたいのに、どこにもその取っ掛かりが見つからない。
これまで、おそらく一種類のカリカリフードしか食べていないから、大好物というものも存在しない。
おやつをあげても、これ何ですか? という感じで、食べれない。
いくつか犬が喜びそうなオモチャも用意していたのだが、与えても遊び方を知らない。
散歩が好きな子なら、思いっきり歩いてストレスを発散できるのに、オハナは外を歩けない。
固く閉ざされたオハナの心に入り込む穴がどこにもなくて、途方に暮れた。
でも、明日は明日の風が吹く。
昨夜、オハナに、大丈夫だよ、オハナはとってもお利口さんだから、絶対に絶対に大丈夫だよ、だから、安心して寝ていいんだよ、また明日になったら会えるんだよ、ということを、ものすごく真剣に、心の底の底から伝えて寝たら、オハナは全く夜鳴きも遠吠えもすることなく、朝を迎えた。
そして、朝一番に外へ連れ出し、ノラコヤの庭の中を歩いたら、なぜかスイスイと歩いてくれた。
ちょっとでも道路に出ようとするとピタッと足を止めるから、とにかく庭の中だけグルグルグルグル回遊魚のごとく歩いた。
歩きながら、とにかくオハナを褒めまくる。
オハナにとって、庭は安心して歩ける場所なのだろう。
よかった。庭の植物たちが、オハナに明るい光をもたらしてくれた。
最初は、緊張のためトイレができず、ケージの中でおしっことうんちをして、そのことを大喜びしたのに、すぐに欲が出て、トイレシートにして欲しいと思う。
トイレシートにしたらしたで、はみださずに上手にして欲しいと思うようになる。
上手にできたらできたで、今度は外でできるようになって欲しいと願ってしまう。
ゆっくり、焦らず、と頭ではわかっていても、つい、自分の都合で期待してしまうのだ。
きっと、人間の育児もそういう感じなのだろうと思う。
欲を出したら、キリがない。
人間からの惜しみない愛情。
オハナには、それが圧倒的に足りていない。
きっとオハナは、私を成長させるために来てくれたのだと思う。
オハナを植物だと思って、植物の成長を見守るように、日々、絶え間なく愛情を注ぎ続けるなんてことが、果たして自分にできるのか。
不安になる瞬間もあるけれど、間違いなく、やりがいのある相手でであることは確かだ。
今日、新聞でとてもいい言葉に出会った。
それが、DIY。
どうにか、いっしょに、やっていこう。
仙台市で喫茶店を営む美術家の言葉だという。
あぁ、まさにそう。
私とゆりねとオハナも、まさにこれだ。
オハナが迎える前は、ゆりねとオハナに特別な友情が芽生え、無二の親友になってくれたら、なんていう理想を描いていた。
でも、ゆりねにとっては、歳も違う、体の大きさも全然違う相手がいきなり同じ空間にやって来るなんて、本当にいい迷惑だ。
たとえるなら、相思相愛のカップルがいて、一方が、でも自分がいない間君が寂しいだろうから、もうひとり友達を連れてきてあげるから、その子と仲良くしてね、と無理強いするようなもの。
ゆりねは私と一対一でべったり過ごすことを、何よりも望んでいる。
それを承知で、私はオハナを迎えた。
だから、ゆりねのためを思って、なんて調子のいい偽善を言うのは、口が裂けても止そうと思う。
この一週間、ゆりねの寛大さというか、懐の深さというか、器の大きさに改めて気づかされた。
ゆりねが私にとっての最初の犬で、私は本当に本当に幸運だった。
どうか、オハナが今夜もぐっすり眠ってくれますように。