海と山と

鹿児島近代文学館でのイベントに呼んでいただき、鹿児島へ。
屋久島や奄美大島には行ったことがあるけれど、本土の鹿児島は初めてだ。
会場には、200人もの皆さんが集まってくださり、私自身が本当に満ち足りた時間を過ごさせていただいた。
呼んでくださって、ありがとうございます。
当日、会場にいらしてくださった方々からたくさんの優しいエネルギーをいただき、あぁ、鹿児島までやって来て本当によかったと、いまだに心地良い余韻に包まれている。

翌朝、朝靄の中で見た桜島が美しかった。
鹿児島には、海も山も両方ある。
ままならない大自然を目前にして、たくましく生きる鹿児島の人たちの姿が印象的だった。
鹿児島もまた、とても豊かだ。

鹿児島は、向田邦子さんにとっての第二の故郷でもある。
今回イベントを主催してくださった鹿児島近代文学館では毎年向田さんの企画展をされており、向田さんの住まいの一部を再現した空間も常設されている。
イベント前、常設の展示を見ながら、なんて偉大な方なのだろうと改めて思った。
作家として作品を書いていた期間は、本当に短いのだ。
その短い間に書かれた作品が、今なお多くの人の心に響いている。

イベントの後半、会場にいらした方からの質問を受けつけたら、まだあどけない10代の女の子が手を挙げて、「自分にはなかなか実現するのが難しい夢があるのですが、それに対してのアドバイスをお願いします」と発言した。

一直線に、最短距離でゴールを目指さなくてもいい。
たとえ寄り道をしてでもいいから、諦めずにいれば、いつかその夢まで辿り着けるかもしれない。
途中、苦しかったり、辛かったり、多くのマイナスの感情を味わうかもしれないけれど、長い目で見れば、全てがその人の栄養になる。
その時は、遠回りや寄り道して時間を無駄にしたように感じても、そこからしか見えない景色があるはずだから、その景色を楽しんでほしい。
そして、たまには休むことも大事。
深呼吸して、自分を遠くから見つめれば、また違った道が見えてくるかもしれないし。
あと、人と較べないことも大切だ。
自分が心地良いと思える歩幅と速さで、前に進んでいけばいい。

10代や20代なんてまだまだひよっこだから、どんなに大きな失敗をしたって、いくらでもやり直せるのだ。
個人的には、あまり若い頃に成功してしまうよりは、若い頃はたくさんの経験を積んで、失敗もして、きちんと大人になってから成功する方が、長続きするような気がする。
だから、隣の人の成功を羨んだり焦ったりする必要なんかないの。
最終的に自分自身が幸せだ、と感じられたら、それが成功ということなんだと、私は思っている。

その時にうまく彼女に伝えられたどうか自信がないけれど、私が言いたかったのは、こんなことだ。
最近、若い子を見ると、もうかわいくてかわいくて仕方がない。
そこに生きているだけで光っている。
自分が光っているか自分ではわからないかもしれないけれど、周りの人には光って見えているのだ。
そのことを、どうか自分の胸に留めていてほしい。
自分で自分を蔑んだり貶めたりするなんて、本当に無意味だ。
若いって、それだけで素晴らしいこと。
どうか、あの女の子の夢が叶いますように!

そして私は、鹿児島から里の住まいに戻った翌日、ゆりねを連れて山小屋へ。
森暮らしの3シーズン目がスタートした。
ほんの短い里暮らしだったけど、里にもまた海と山があって、どっちも綺麗だ。