芽吹き

5月になったら、日に日に視界に占める緑が増えてきた。
ついに迎えた、芽吹きの季節。
数日前、里から遊びに来てくれた友人は、ここでは季節が2ヶ月遅いと話していた。
里は、もうとっくに芽吹きの季節が過ぎ、初夏の空だとか。

でも、私が暮らしている森では、ようやく今、植物の新芽が顔を出し始めている。
急に、世界が明るくなった。
一瞬でも目を閉じると、大事な瞬間を逃してしまいそうで目が離せない。
ついこの間まで殺風景だった道路が、今は緑のトンネルになりつつある。

ゴールデンウィークは、ひたすらお庭仕事に明け暮れた。
やってもやってもやることはいっぱいで、庭仕事に終わりはない。
日々刻々と変化する、庭。
私は完全にお庭のお母さんになった心境で、庭の植物たちが健やかに成長することだけを願っている。

犬や猫も人間がケアをしないと生きていけないけれど、植物たちは、それこそ喉が渇いたからといって自分で水を飲みに行くことさえできない。
だから、責任重大だ。
でも、そばに動物(ゆりね)がいて、植物たちに囲まれて、たまに気心の知れた友人が訪ねてくれて、こんなに幸せなことはない。
オキシトシンが溢れてくる。

今の暮らしの素晴らしい点は、日々、地球の美しさを実感できることだと思う。
もちろん、都会に暮らしていても、小さな自然を愛でたり、旅行をして日常を離れて、自然の美しさを堪能することはできる。
でも、森にいると、日常的に大自然に触れることができる。
あまりの自然の美しさに、ただただ泣きたくなるような出会いが、普段の暮らしの中にたくさんあるのだ。

それは、ものすごく人を幸せにするというか、満たしてくれる。
地球に生まれて、今、ここにいることを、無条件で喜べるという感情は、森暮らしを始めてから初めて味わったものだ。
誰に対してなのかわからないけれど、ありがとう、という感謝の気持ちが湧き上がってくる。

連休中、一日だけ白駒の池へ行ってきた。
去年、登れなかったニュウの頂上を目指し、そこから中山峠を通って下りてきた。
登山道にはまだしっかり雪が残っていて、苔と雪とのコントラストを堪能しながら登山を楽しむ。
今年初の山登りだ。
アイゼンがあった方が安全だろうという場所もあったけど、まぁ、登山用のストックだけでなんとか大丈夫だった。

ニュウの頂上からの眺めは、素晴らしかった。
あの荘厳な景色は、自分の足で山の頂まで行った者しか見られない。
まさにご褒美だ。
空も快晴で、本当に、生きててよかった、と思えるような絶景だった。

登山は、自分の心地よいペースで登れるのが一番だ。
誰と競うでもなく、ただ、一歩、また次の一歩だけを考えて。
そうすれば、気がついたら頂上に着いてしまう。
あまり遠くを見ない方がいい。

同じ頃に登り始めた男女のペアは、いつも、男性だけが先にスイスイと行ってしまう。
女性はかなりしんどそうで、彼に着いていくのがやっとだった。
彼は、女性が追いつくと、また先に行ってしまう。

女性を先にして、登山に慣れている様子の男性が後から着いて行ってあげればいいのにと、部外者ながらその様子に悶々とした。
結婚しているのか、これから一緒になろうとしているのかわからないけれど、一緒になろうとしているカップルは、一度、一緒に山登りをして、相手がどんな性格かを見極めるのもひとつだと思う。
登山には、その人らしさが出るし、大変な時にどうやって乗り切る人かもわかるのではないだろうか?
余計なお世話ながら、おばさんはそんなことを思っていた。

山登りを終えた後は、温泉に寄って、山小屋に帰ってからお庭でワイン。
ほろ酔いで、庭の植物たちに、盛大に水を撒いた。
新しいホースが、大活躍!