福袋

昨日は、銀座NAGANOでのお話会。
会場に来てくださった参加者のみなさん、そしてオンラインで視聴してくださったみなさん、本当にありがとうございました。
とてもとても楽しい時間でした!

リアルの参加者の方には、長田佳子さんの手作りお菓子と、ハーブティーが振る舞われ、みなさん笑顔で召し上がっていた。
その笑顔を見て、私もまた幸せになる。
何を隠そう、私、佳子さんのお菓子の大ファンなのだ。
佳子さんのレシピ本を見ながら、山小屋でよくおやつを作っている。
夏の暑い日、オカズさんと共に山梨のアトリエを訪ね、その時一緒にピザを焼いて食べたっけ。
野の花みたいな、とっても素敵な人。
そんな佳子さんが、昨日はりんごのケーキを焼いて持ってきてくださった。
長野といえば、もちろんりんご。

こういう形でのお話会は、久しぶりだ。
コロナ中はなかなかできなかった。
でも、やっぱり直接人に会えるというのはいいなぁ。
普段の森暮らしでは滅多に人に会わないので、直接お目にかかって言葉を交わせる時間が新鮮だった。

それと、リアルっていい、と強く思ったのが、同じテーブルになった方同士が親しくなり、帰り際、「友達もできました!」と嬉しそうにおっしゃったこと。
リモートはリモートでいろんな良さがあると思うけれど、その場で生身の人間同士が距離を近くするというのは、リアルの良さだと思う。

イベント終了後は、急ぎ足で里の住まいへ直帰。
ゆりねの留守番が長くなるので、なるべく早く帰宅するつもりでいたのだが、思った以上にスムーズに帰れて、帰宅後、今日は無理だろうと諦めていたお散歩にまで行くことができた。

夕方の5時近くても、空がまだ明るい。
急に日が長くなっている気がしたのだが、それは私が山から下りたから余計そう感じるのだろうか。
夕暮れの空には、春の気配すら感じた。
そして、川沿いの土手には、もう水仙の花が咲いている。
森では確か5月頃に咲くから、こんなに早く咲いていることに驚いた。
もう、春は近いのかも。
里の住まいの目の前には川があり、その川沿いは桜並木だ。
桜の季節が待ち遠しい。

昨日は、なんだか気分が高揚していた。
それで、散歩から帰ってゆりねにご飯をあげ、いつもの温泉で疲れを癒し、その後は近所の居酒屋(?)へ行こうと決めていた。
森では、夜は必ず山小屋で食べる。
その習慣が定着し、里でもまだ、外食はお昼のランチ一回しかしていない。
でも、昨夜はちょっと冒険がしたいような気分だったのだ。
里暮らしだと、そういうことが気軽にできるから楽しい。

お風呂を出て、さぁお店に行こうとワクワクしながら歩いていると、おや、駐車場の一角に何やら灯りが見える。
近づくと、どうやらスタンドバーになっていて、寒空の下、日本酒と甘酒を出して売っているのだ。
どちらも一杯100円だそうで、しかも、今年初の出店なので、今夜は無料で振る舞っています、とのこと。
よかったらどうぞ、と勧められ、遠慮なくいただくことにすると、紙コップに地元のお酒を並々ついで渡される。
思いもよらぬ展開だ。でも、せっかくなので。

ちびりちびり日本酒を飲みながら、店主(?)に、ご近所のおいしいもの情報などを教えていただく。
これからY(居酒屋)に行くのだと話したら、あそこはおいしいと太鼓判を押され、更に一緒に売っていた88歳のおじいさんが育てたという蜜柑を買おうとしたら、いえいえお代は結構です、と無理やり蜜柑二袋を渡され、ひとつはYの女将に持っていってください、と言う。
今会ったばかりの人から、これまたまだ会ったことのない人へのお使いを頼まれ、ほろ酔いでYを目指した。

Yは、いいお店だった。
カウンター席に座り、まずは生ビールを注文する。
そして、忘れないうちに女将さんに蜜柑を手渡す。
風通しの良さそうな女将さんで、店全体から、間違いなくおいしい料理を作りそうな雰囲気が醸し出されいる。

メニューはイタリアンっぽいのが多く、よくひとりでこれだけの料理を作れるなぁ、と感心するほどたくさん種類がある。

しかも、ありがたいことに、お酒はナチュラルワインだ。
どれもこれも気になるが、特に興味をひかれたカリフラワーのフリットとイワシのハーブカツレツを注文した。
どっちも揚げ物というのが気になったものの、体が要求するのでそれに従い、もしもっと食べられそうだったらパスタを後から注文することにして、まずはその二つをお願いする。

私がビールを飲みながらお通しを食べていると、若い女性の二人連れがやって、後ろのテーブル席についた。
お酒が好きらしく、ふたりで泡のボトルを開けている。
なんという幸せ。
歩いてふらりと来れる場所にこういうお店があるというのは、里暮らしの醍醐味だ。
ここでもまた、女将さんに地元の情報などを教えてもらう。
やっぱり、住んでいる人の生の声を聞くのが一番だ。

ただ、さっきのスタンドバーでもそうだったけど、何をしているんですか? という類の質問は、微妙に避けたい。
大抵の場合、ざっくり、家で仕事をしているんです〜、と答えるのだが、じゃあ家でどんな仕事をしているのか、という具体的な話には、正直、答えたくないのだ。
さぁ、何でしょうねぇ、何だと思いますか? と逆にはぐらかすんだけど。

「モノづくりの人ですか? そういう雰囲気がビシバシ出てますけど」と女将さん。
「まぁ、広い意味ではそうかなぁ」と私。
「あ、陶芸家!」
「ぶぶぅ」
「じゃあ、ガラス作家?」
「ぶぶぅ」
「うーん、じゃあ、建築とか?」
「憧れますけどね」
と、こんな調子でとりあえず煙にまいておいた。
だって、この何でもないフラットな関係が楽しいから。

そのうち、後ろのテーブルにいる女子ふたりも会話に参加するようになった。
ふたりのうち、ひとりは東京から、ひとりはカナダから来ているという。
ふたりとも会社勤めをしていて、東京の子は、この町が好きでほぼ毎週のように通っているとのこと。
「何でそんなにここが好きなの?」と聞いたら、
「私、温泉が好きで。っていうか、ここの町の人がめっちゃ好きなんです。すごく優しいので」
と目を輝かせる。
あー、わかるわかる。
そうなのだ、何だか町の人が気さくで、優しいのだ。
私も同じように感じていた。

どうやらふたりは今、共に同じ悩みを抱えているらしかった。
カナダちゃんが言う。
「同年代の子たち、結婚して、子育てとかしてるの見ると、何だかこのままでいいのかなぁって不安になるんです」
東京ちゃんは29歳、カナダちゃん30歳。
「そんなの全然、大丈夫だよ〜」
と私と女将さんは、同時に声をあげた。

そうだよ〜、まだ若いんだし。
30なんて、まだまだ子どもだよ。
自分が結婚して、子育てしたいならそうすればいいけど、周りがそうしているから自分も、なんて思う必要は全然ないよ。
今、やりたいことをやればいいじゃん!
だって、あなたの人生なんだから!
誰かにとやかく言われる筋合いはないよ。

と、そんなようなことを女将さんと私が交互に力説していたら、うわぁ、おねーさん達にめっちゃ勇気づけられるぅ、と目をうるうるさせている。
そして、「今日、おねーさんに会えてよかったです」なんて、可愛いことを言ってくれた。

会話の途中で判明したのだが、私と女将さんは同い年だった。
ちょっと聞いた女将さんの人生は、なかなかに手強いもの。
大変だったけど、それを乗り越えて、今、ここでこうして逞しく料理を作っているその姿が、美しかった。

昨日、私はどれだけの人に出会ったのだろう。
もう、福袋みたいな一日だった。
紙コップの日本酒に始まり、ビール、その後白ワインと3杯も飲んで、帰り道はふわふわ。
海辺の夜の町の空気に、自分の体がすーっと馴染んでいくのを感じて嬉しくなる。