手と手

少しずつ地震の被害が明らかになり、そのたびに言葉を失ってしまう。
多くの命が失われ、多くの家が形をなくし、多くの人々が避難を余儀なくされている。
寒いだろうし、ひもじいだろうし、困難に直面している方達の状況を思うと、本当に本当にやりきれない。
それでも、私が同じようにただ呆然と立ちすくんでいても何の力にもならないから、とにかく今は自分にできることを淡々とやっていくしかない。
それがいつか、支援につながっていけばいい。

山の麓に暮らす友人と、ささやかな新年会をした。
彼女はベジタリアン。
野菜しか食べないので、特別な準備もせず、山小屋にあるものだけを使ってその場で適当に調理する。
夕方来て、飲んで食べて、お泊まりして、翌日帰るのがいつものパターンだ。
パンとワインは、友人が持ってきてくれる。

前回同様、薪ストーブの前に小さなテーブルを出し、そこで火を見ながら始めた。
まずは、立派なサツマイモがあったので、アルミフォイルに包んでそれを薪ストーブに入れて焼いてみる。
それを、ふたりで赤い手袋をはめて食べる。
火のそばで使う軍手などは、赤で統一しているので。
お芋を半分に割ると、ふわりと甘い湯気が立つ。

おいしい。
ただ焼いただけなのに、素晴らしくおいしい。

「そういえばさ、この辺って、あんまり焼き芋屋さん来ないよね?」
ホクホクのお芋を食べながらふと思い出して私が言うと、
「そりゃそうだよ、みんな、家の中に何かしらの火があるから、自分ちで作れるもん」
とのこと。
あんまりにも当たり前のことなのに、私は目から鱗が落ちる思いだった。
確かにねぇ。
みんな、焼き芋くらい家で作れるもんね、とストンと腑に落ちた。
東京で暮らしていた頃、しょっちゅう焼き芋屋さんが売りに来ていたのは、家庭で作れないからなのだ。
なるほど、なるほど。言われてみれば、当然だ。

お芋の次は、人参。
昼間、ご近所さんが妙に長い、新聞紙に包まれた杖のような物を届けてくれたのだ。
聞けば、大塚人参とのこと。
そんな長い人参、初めて見た。しかも、ずっしりと重い。
ちゃんと長さを測ってみよう、ということになり、メジャーで測ったら、身長が1メートル10センチもある。
もはやただの人参には思えず、友人と名前をつけることになった。
数秒後、友人の発案で、「ピッピちゃん」と命名された。

ピッピちゃんのお腹の部分を切断し、更に半分に切って素揚げにする。
硬めの方がおいしいとのことなので、気持ち硬めの状態で油から引き上げた。
そこに、パラリと塩を一振りしていただく。
身がぎゅっとしまっていて、なんとも美味だ。
ワインが進む。
これに、パンがあればもう十分。
簡単な食事で、私たちは大いに満たされた。

そう遠くない未来に、食糧難の時代がやって来る。
日本は、農業を担う人が極端に減り、田畑を維持できなくなる。
海外からの飼料に頼る日本の酪農も、継続がかなり危うい状態だ。
日本の食料自給率は、とても低い。
海外から当たり前のように食べ物をお金で買うことができればそれでも維持できるけれど、戦争や気候変動で、その食べ物が調達できなくなれば、途端に私たちは食べ物に困ってしまう。

空腹になれば、争いが増える。
だから、最低限今すぐ私たちができることは、まず第一に食べ物を無駄にしないこと。
そして、少しずつ、食べる量を減らし、体を順応させていくことなのではないかと思う。
私自身、ベジタリアンにはなりきれていないけれど、肉や魚は贅沢品の位置付けだ。
そうやって、一人一人が、自分の食生活を根本から変えていかないと、この先の食糧難に対応できなくなる。

ぼちぼち、自分で自分の食べ物を作り、育てるということも視野に入れないといけないんじゃないかと、このお正月、その気持ちを強くした。
お金を出せばなんだって手に入った時代は終わり、いくらお金があっても必要なものが手に入らない時代が来るかもしれない。
まずは、小さな畑でいいから、家庭菜園を始めたい。

翌朝は、これも前回のお泊まり会同様、YouTubeの動画を見ながらふたりでヨガ。
2024年の初ヨガになった。

その後、夜更けに雪が降ったので、雪原を散歩することに。
ゆりねも連れて、最寄りの湖まで行った。
ゆりねと友人と、白い息を吐きながら雪原を歩く。
風があってものすっごく寒かったけど、でも気持ちのいいお散歩だった。
ゆりねも、仲間(友人)がいるとテンションが上がるのか、雪原でゆりゴンを炸裂させる。

お昼、森の中のカレー屋さんに行きたくなり、うん、そうしよう、と盛り上がるも、まだお正月休みで開いていない。
だったら、ここにあるもので適当に何か作って食べようということになり、ふたりで人参ラペのサンドイッチを作った。
友人が、ひたすらひたすらピッピちゃんを細く刻んだ。
その間に私は、菜の花でマリネを作る。
パンの間にたっぷりと人参のラペを挟み、サンドイッチが完成した。

なんだかおしゃれなカフェにいるみたいだねぇ、と言い合いながら、共に大きな口を開けてサンドイッチにかぶりつく。
食べながら、こんなふうに日常を過ごせることに、ありがたみを感じた。
地震の直前まで、被災地の皆さんもきっとこんなふうに幸せな時間を過ごしていたはずだ。

ランチの後、ふと思いついて、友人にハンドマッサージをする。
彼女が選んだ精油は、ラヴィンツァラだ。
私もこの精油が好きなので、嬉しい。
最初に、ハンドバスをして、その後、左手、右手、と順番にオイルでマッサージする。
友人は、すぐに眠ってしまった。
こういうことを、被災地にいる人達にもしてあげたいのだが。

どうか、一刻も早く、被災した方達が安心して眠れますよう。
私は明日、山を下りる。