海へ

横浜でのサイン会を終えて電車に揺られていると、ちょうど夕暮れの海に遭遇した。
淡い淡い、まるでスフレみたいな海。
両手ですくったら、泡みたいにふわっと持ち上がりそうな海の姿が、本当に本当に美しかった。

私の心の中も、ふわっふわ。
鞄に入れてきた文庫本を読む気にもならなくて、とにかくサイン会の余韻を味わいながら、じーっと子どもみたいに海を眺めていた。

たくさんの読者の方にお会いすることができ、心のこもった温かい言葉をかけていただき、最高に幸せな時間だった。
わざわざ足を運んでくださった皆さま、本当にありがとうございました!

海辺の小さな町に冬の拠点を移したのだ。
基本的に私は山小屋で森暮らしをしているけれど、通年いるには、少々、私の能力が足りない。
だから、極寒期だけはどうしても山を下りる必要がある。

直近の冬を東京で過ごして、ものすごく違和感を感じてしまったのだ。
朝、カーテンを開けて人工物しか見えないことに耐えられなくなった。
もし、森で暮らしたりしなければ、そんなことは感じなかったはず。
でも、私は大自然の圧倒的な美しさを知ってしまったので、もう元の自分には戻れない。
東京を、卒業することにした。

普段は山の中で結構ハードな暮らしをしているので、冬くらい、お日様の光をたっぷり浴びて、ぬくぬくしたい。
ゆりねにも、シーに怯えることなく生活してほしい。
私の中に海的な要素はほぼないのだけど、でも冬の海は大好きだ。

まだ数えるほどしか山小屋から車で来たことはないけれど、毎回、海が見えると得したような気分になる。
海は、私にとって非日常の世界。
特別な場所だ。
これからは、冬、行きたくなったらいつでも海へサクッと行けるようになった。

昨日長いお留守番をしてもらったので、今日はゆりねとたっぷりイチャイチャして過ごす。
この子は、本当に私の人生に寄り添ってくれて、感謝しかない。
喜びばかりを、日々与えてくれる。

昨日のサイン会では、お手紙を書いて持ってきてくださった方もたくさんいらした。
面と向かうと緊張してうまく話せないかもしれないので、と手紙という形のギフトをくださる。
今日、その手紙を一通一通読みながら、昨日のふわっふわが、口の中で綿菓子みたいに甦った。

夕方、温泉へ。
東京を離れるにあたり、新天地に求めたのは、温泉だ。
あとは、居心地のいいカフェが一軒あれば、大満足。
今、私はそれを探しているところだけど。

あー、やっぱり温泉はいいなぁ。
この町のことはまだまだ手探りだけど、この温泉があってくれて、よかったなぁ、なんて思いながら、湯船に浸かっていたところ、
あの〜、と声をかけられた。
「『天然生活』の、、、」と続く。

ひゃー!!!!
まさかお風呂で声をかけられるとは。
もう、びっくりを通り越して、笑ってしまった。

今更、違いますと否定しても始まらないので、「なんでわかったんですか?」と逆にこちらから質問すると、
「お風呂用のバッグ、いいなぁと思っていたので。それに、手作り石鹸ですし」
とのこと。
まさか、湯船で『天然生活』の読者さんにお会いするとは想像もしていなかったので、もう本気でたまげてしまった。

私、ふだん生活している時は、自分で自分が小川糸だというのをほぼ忘れているので、なんかもう本当に驚いてしまうのだ。
でもって、この一ヶ月ほどの間にこういうことが3回ほどあり、そういう時に限ってジャージを履いていたり、裸だったり、なんかもう、穴があったら入りたいような気持ちになってしまう。
私が、無防備すぎるのだろうか?

でも、せっかくここでお会いしたのもご縁なので、この土地のことを逆に色々教えていただいたりなんかして。
湯船で、楽しくおしゃべりをした。

住めば都とはよく言うけれど、まだほんの少ししか滞在していないにせよ、なんだかいい町だなぁ、と感じている。
何より、住人の方が皆さん気さくで、おっとりしているのがいい。
人との間に垣根を作らない気質なのかもしれない。
だから、ゆりねを連れて歩いている時も、よく声をかけられる。

今日は、久しぶりの、あー、マジでびっくりしたわー! の巻。

でもって、ここからは私からのサプライズです。

今日11月4日は、ゆうみちゃんのお誕生日。
ゆうみちゃん、ハッピーバースデー!!!!!
10歳のお誕生日、おめでとう。

ゆうみちゃんは、昨日のサイン会にお母さんと来てくれた小学4年生のかわいいかわいい女の子。
昨日は緊張してたのかあんまりお話しできなかったけど、気持ちを手紙に書いて持ってきてくれた。
便箋も、オカメインコのを選んでくれた。
どうもありがとう。
お手紙、本当に嬉しく読ませていただきましたよ。

ゆうみちゃん、自分の心の中にある気持ちを言葉にするのが、とってもとっても上手だね。
ゆうみちゃんの気持ちが、私にまっすぐ届きました。
だから、書くことを続けてね。
そして、ゆうみちゃんの本ができたら、ぜひ私に読ませてくださいね。

ゆうみちゃん、このメッセージに気づいてくれるといいなぁ。
こんなにかわいい小学4年生に本を読んでもらえて、しかもお手紙までもらえるなんて、やっぱり私はとことん幸せ者だと実感した。

ゆうみちゃんも手紙に書いていたけれど、悲しいことや嫌なことは尽きないけど、いつも見逃している幸せを「キラキラ」で見つけ出しましょうね!

もう一度、ゆうみちゃん、ハッピーバースデー!!!!!!
すてきな10歳を過ごしてください。
大人になったゆうみちゃんとまた再会できるのを、楽しみにしています。

さてと、来週は大好きな京都へ。
そして、もう一回横浜でサイン会。
お待ちしてまーす。