手紙よ、手紙

『椿ノ恋文』が届いた。
ついに完成した最新刊。
新聞連載からのスタートだったので、足かけ何年になるのだろう。
ようやく、一冊になって感無量だ。

このところ、夕食を食べてから、手紙を読み直す時間を設けている。
ムッティに薪をくべたりしながらするのに、手紙を読むのはとてもいい。
ものすごく大きな段ボール一箱分に、私宛の手紙がぎっしり入っている。

多くは、読者の方からのお手紙。
その中でも、圧倒的に多いのが、やはり『ツバキ文具店』がきっかけでいただいたお手紙だ。
みなさん、本の最後に載っている、「ツバキ文具店へのお手紙はこちらへ」をご覧になって、手紙を書いて送ってくださったのだ。
読後すぐのお手紙から、しばらく時間が経ってからのお手紙まで、本当に様々だ。

以前は手紙を書くのが好きだったのに、このところはメールやラインで要件を済ませてしまい、手紙を書くのをやめていたんです。でもこの物語を読んでむしょうに手紙が書きたくなりました。
だけど咄嗟に手紙を書く相手が思いつかないので、鳩子さん宛に書きますね、とか。
実際に書いてみて、やっぱり手紙っていいものですね、だからやっぱりまた手紙を書くのを始めてみようと思います、とか。
物語を読み終えてすぐ、大切な人に手紙を書きました、のご報告とか。
今片思いの人がいるのですが、今度手紙で告白してみようと思います、とか。

中には、誰にも打ち明けられない秘密をそっと鳩子に打ち明けてくださった方、病床で読んで一言感想を伝えてくださった方、ご自身は目が見えないので図書館で音声図書を借りて、その感想を丁寧に文字にしてくださった方、本当に多くの方が、鳩子に手紙を書いて送ってくださった。
こんなふうな形で読者の方と繋がれるというのは、本当に本当に幸運なことだと改めて思う。
お手紙を書いて送ってくださったみなさん、本当にありがとうございました。

読者の方からの手紙に混ざって、友人などから個人的にもらった手紙も顔を出す。
それがまた、面白い。
面白いというのは、こんなことまで手紙でやり取りしていたのか!という発見があるから。
今だったらメールでやるような連絡事項を、長々と手書きで伝えている。
そこには、それぞれ書いた人の温もりがあって、匂いがある。
ずいぶん疎遠になってしまった人でも、その人が書いた文字を見ただけでパッとその人の顔が浮かび、声が蘇ってくる。
手紙の束を前にして、時間の層がバウムクーヘンみたいに積み重なっているのを実感した。
大袈裟だけど、生きた証を見ているようなのだ。

手紙を振り返る中で、母から来た手紙とも再会した。
自分では、全て処分したものを思い込んでいたので、まさかの展開だった。
手紙というよりメモに近いもので、私宛に送ってくれた荷物の中身の説明が長々と綴られている。
多くは、母愛用の筆ペンで書かれたものだ。

子どもの頃、かなり崩して書く母の書き文字を判読するのに難儀したものだけど、やっぱり今読んでもなんて書いてあるのかわからない箇所があり、その部分は潔く読み飛ばした。
そこには、まだ母が生きていて、私は生身の母と再会したような気持ちになった。
そして、改めて母からの愛情を感じた。
父が書いて送ってくれた小さなメッセージカードも出てきた。
やっぱりそこにも、元気な頃の父がいた。

私はこのところ、毎晩、こんなふうに過去の手紙と触れ合って過ごしている。
手紙には、やっぱり手紙にしかない優しさというか、温もりというか、美しさがある。
そんな手紙の良さが、『椿ノ恋文』でもお伝えできたら嬉しい。

今回は、新聞連載だったので、しゅんしゅんさんが毎回毎回、挿画を描いてくださった。
全部で、ちょうど200話分。
その全ての絵をまとめた、『椿ノ恋文画集』も一緒に届いた。

昨夜、1ページ1ページを噛みしめるような気持ちで、ページをめくった。
そこに添えられたしゅんしゅんさんの言葉にクスッと笑ったり、確信をつかれたり。
最初は、どの絵が一番好きか探しながらページをめくろう、なんて思っていたけれど、一番なんて決められなくて、どの絵にもそれぞれの味わいと魅力がある。
一冊にまとめるにあたり、装丁もしゅんしゅんさんがご自分でなさったとのこと。
ぜひ、画集の方でも『ツバキ文具店』の空気を味わっていただけら嬉しいです。

そしてそして、『椿ノ恋文』でも、かやたにけいこさんが物語に登場する手紙を丁寧に再現してくださった。
もう、本当に本当に見事なお仕事に脱帽してしまう。
読者の方の中には、中に登場する手書きの手紙を私が書いたと思っていらっしゃる方がいるようだけど、私にそんな才能はない。
『ツバキ文具店』も『キラキラ共和国』も『椿ノ恋文』も、中の手紙は全部かやたにさんの手によるものだ。
どの手紙も、かやたにさんが産みの苦しみを味わいながら、必死の思いで形にしてくださったもの。
この人は、本当に字書きとして稀有な才能をお持ちだ。

しゅんしゅんさんの絵とかやたにさんの書き字、おふたりの力に大いに大いに支えられて、ポッポちゃんシリーズは成り立っている。

また、新たな物語を読者の方にお届けできることが、心から嬉しい。
来週から3箇所でサイン会を行います。
よかったら、会いにいらしてくださいね。

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