森のバカンス

ヨーロッパは今、バカンスシーズンだ。
ドイツ人は勤勉なイメージがあるけれど、バカンスの時期は徹底して休む。
結果的にそれが仕事の効率をより上げる、というのがわかっているからなのだろう。
全国民が一斉に休むと、道路が混雑したり何かと混乱するので、地方ごとに子供たちの学校の休みの時期をずらし、それに合わせて親たちも休暇を取る。
バカンスも、効率よく取れるように、社会の仕組みが整っている。

去年は、森で過ごす初めての夏だった。
涼しいから夏でも仕事ができると思って、平日は仕事、週末は休日といういつもの流れで過ごしたら、あっという間に夏が過ぎていた。
森の夏は、正味一ヶ月ほどしかない。
週末にゲストを招くと、なんだかバタバタしてしまい、私自身がうまく休めなかった。
こうしたいのにこうできない、という場面が多く、ストレスを感じた。
それに、山の天気なので変わりやすく、週末が都合よく晴れるというのも稀だった。

それでこの夏は、思い切って、一ヶ月ほど夏休みを取ることにした。
森の夏は短いので。
短い夏を、目一杯謳歌したい。
そんな私の夏休みが、昨日のお昼からスタートした。

まずは髪を切りに行く。
お気に入りの床屋さんに行きたかったのだけど、あいにくタイミングが合わなくて、今回はもう少し近くの美容室へ。
山を下りたら、いきなり暑くてびっくりした。
関東方面からやって来たと思われる車が、列をなしている。
皆さん、涼しい風を求めて来たのだろう。
普段は静かな町が、大賑わいだ。

美容師さんは、確かこの春に、赤ちゃんを出産した。
それで今は、様子を見ながら、少しずつ仕事を始めている。
アウトドアが好きで、去年は、ここから歩いて日本海まで行ったという。
そして今日は、赤ちゃんを背負って山登りをすると話していた。

八ヶ岳界隈には、こういう、自由な生き方をしている人たちが多い気がする。
自分の心地いいと感じる歩調で、楽しみながら、生きている。
その感じが、多分、ベルリンに似ているのだ。
だから、私には居心地がいいのだろう。
それに、この辺りに暮らしている人たちのセンスがものすごくよくて、刺激になる。

髪の毛を短くしてもらい、帰りは大好きなお花屋さんに寄って、コーヒー豆を挽いてもらう間にパフェを食べる。
あぁ、これぞ夏休みだ。
パフェには、桃が半分も入っていて、誰かがむいてくれた桃を食べられるのは、誰かがむいてくれた蟹を食べるのと同じくらい嬉しい。

果物は山梨で、野菜は長野。私の中に、はっきりとした線引きがある。
やっぱり、山梨の桃は、おいしい。
つい最近まで、固い桃はあんまり好きじゃなかったけど、固い桃もいいなぁと感じるようになった。

夏は、案外時間がある。
春は庭仕事が忙しいし、秋は冬支度に追われる。
冬は薪を焚いたり、山小屋の中でやることが色々ある。
その点、夏は植物たちの成長を見守る時期だ。
雨もよく降るから、それほど水撒きもしなくていいし。
だから、本を読んだり、映画やドラマを見たり、ふだん時間がなくてなかなかできないことに向き合うことができる。

今は、『らんまん』を集中してだだーっと見ている。
面白い。
植物愛が、ますます刺激される。

この夏は、ゲストもたくさんやって来る。
週末だけに限定するとなかなかみんなに来てもらえないので、今年はもう、平日も週末も関係なく予定を入れた。
その方が、私も仕事のことを忘れて一緒に遊びに集中できる。
暑い日は、森のサウナに出かけたり、滝や川など水辺で過ごしたり、キャンプをしたり、ビールを飲みながら森で本を読んだり。
夏でなくては楽しめないことを、思う存分しようと思う。

それが、私にとってのリセットだ。
そうすればまた、秋から仕事に集中できる。
今夜は、同い歳の友人と野外バレエを見に行く予定だ。
雨合羽と虫除けを忘れないようにしないと、だ。