余韻を味わう
サイン会の翌日、新しくできたという錦市場のそばの小川珈琲へテクテク。
夕方6時半からスタートしたサイン会だったけど、終わったのは9時だった。
そこからご飯を食べに行き、ホテルに戻って、いつもより随分遅く寝たはずなのに、なんだか興奮してしまい、朝、早く目が覚めた。
朝6時台の京都は、なんだかやけに清々しく、まるで外国を旅しているような新鮮な気分になった。
パリと京都は、街全体が醸し出す空気感も、自分たちの文化に誇りを持っている人々の気質も、川のある風景も、共通したところがある。
並ぶらしいと聞いていたので少し早めに到着したら、誰も並んでいなかった。
開店の7時ちょうどに、一番乗りで店に入る。
お庭が見える奥の席について、カフェオレを注文した。
それから、続々とお客さんがやって来た。
昨日のサイン会の余韻を味わいながら、読者の方から頂戴したお手紙を読む。
先日の横浜でのサイン会でもそうだったけれど、中学生の時に『食堂かたつむり』を読みました、という、今、大学生とか社会人なりたての若い方が結構いらっしゃる。
最初の作品を発表してからの時間を感じて、とっても感慨深い。
短い間だけれど、ひとりひとりの方と言葉を交わし、その方のお名前を書いていると、様々な人生に触れて、胸が熱くなる。
みなさん、必死になってそれぞれの人生を生きているのだな、と実感する。
時には大変なことを乗り越えなくてはいけなかったり、もしくは今も大変なことを抱えていたりするけれど、それでも、私に会いに来てくださって、その瞬間は笑顔を見せてくれて、そういう出会いが最高に嬉しい。
最初の頃のサイン会とはまた違う、深い深い味わいのようなものを感じている。
ただ、お待ちいただく時間がどうしても長くなってしまうので、それだけが本当に心苦しくて、申し訳ありません、と思う。
明日は、横浜での2度目のサイン会だ。
それにしても京都、外国人の多さにびっくりした。
噂では聞いていたものの、ここまでとは!
新幹線の改札を出たら、ここは外国の駅ですか? ってくらい、外国人旅行者の姿ばかりが目に飛び込んでくる。
もう、京都は完全な国際都市だ。
きっとこれから、京都の若い子たちの英語力がぐんぐん伸びるのだろう。
現に、私が行った小川珈琲でも、接客の女の子が外国人相手にちゃんと英語で対応していた。
泊まったホテルも、大半が外国人だった。
円が安くなっているから、外国からの観光客にとって、日本はとてもリーズナブルに違いない。
円の力が弱くなっているのは、インドでも感じた。
インドにいて、私はそれほど物価が安いとは思わなかった。
このままずるずると円の力が弱くなったら、日本人はなかなか気軽に海外に出られなくなる。
外国人観光客にとっての適正価格にしたら、日本人にとっては高くつく。
近い将来、日本でも、外国人向けの料金と日本人向けの料金、ふたつの値段設定が必要になるのでは? と、京都にいて思った。
意欲ある若い子たちは、日本を脱出して、海外へ出稼ぎに行くだろうし、逆に本当は海外へ留学したいのに、経済的な事情でそれができないという子も増えてきてしまうだろう。
私だって、今の状況だったら長くベルリンにいるのは難しかったかもしれない。
日本のいい文化を味わっていただくのはとても嬉しいことだけど、ただ安いからという理由だけで日本が選ばれているのだとしたら、今は良くても、この先はかなりしんどいのではないかしら?
そういえば、京都でのサイン会に、フランス人の青年が来てくださった。
『ツバキ文具店』のフランス語版を読んでくださったとのこと。
今は日本で華道の勉強をしているそうで、『椿ノ恋文』のフランス語版も、楽しみにしてくださっていた。
そんなふうに、物語が海をこえて外国の読者の方にも届けられるというのは、幸せなことだ。
改めて、物語の力というか、言葉の力を感じた。
読者の方にどれだけの感謝を伝えられたか自信がないけれど、ありがとうをお伝えたいのは、私の方です。
作品を読んでくださって、本当に本当にありがとうございます!