ヨモギの精

夏は短い。
駆け足で通り過ぎる。
私が森にやってきた7月始めの頃は、正直まだ寒かった。
そして今日は、9月1日。
もう、初秋の風だ。
気の早い森の木は、すでに紅葉を始めている。

今日は朝から雨。
一度も窓を開けず、一日中うすら寒かった。
はっきり「夏」と言えるのは、7月20日から8月20日くらいまでの、正味一ヶ月くらいかもしれない。
だからこそ、夏という季節にものすごい価値がある。

昨日、温泉に行った帰りにヨモギを積んできた。
今日は雨で一日外に出られないので、ヨモギの蒸留をする。

山小屋ができたらぜひやろうと思っていたことの一つが、植物を蒸留して、そこから精油(エッセンシャルオイル)を抽出すること。
だって、周りには植物が溢れているのだ。
身の周りの植物から精油を取り出して、香りを楽しみたいと思っていた。

アルコールランプに火を灯して、ヨモギを蒸す。
その蒸気を冷やすことで、ヨモギのエキス(蒸留水、フローラルウォーター)ができる。
その上の方にうっすらとできるのが、精油だ。

ただ私はど素人なので、フローラルウォーターはできても、精油を取り出すのはまだ難しい。
きっと、蒸す時の温度とか、冷やす時のタイミングとか、いろんな条件が重なって精油が取れるのだろう。
自分でやってみて、精油がいかに貴重なものかが身にしみてわかった。
いわば、精油は植物の真髄。魂のようなもの。

それでも、フローラルウォーターを取り出せるだけで、十分楽しい。
ポタリ、ポタリ、と一滴ずつゆっくり落ちてくる雫を見ているだけで、心身が癒やされる。
特に、今日みたいに外に出られない日は。

このフローラルウォーターは、簡単に言うと化粧水になる。
完璧な、無添加化粧水だ。
出来立ての雫を手のひらにのせて、顔に馴染ませた。
なんという気持ちよさだろう。
ヨモギの精が、スーッと肌に馴染んでいく。

今日は夕方、練習も兼ねて薪ストーブに火を入れた。
1回目は、山小屋中が煙まみれになり、危うく私とゆりねが燻製になるところだった。
2回目は火はついたけれど、温度がさほど上がらなかった。
そして今日は、3回目。
いざという時、あたふたしないように、きちんと火を入れられるようにしておかないといけない。

大丈夫だった。
きっと世の中には、必要最小限の薪で最大限の炎を育てる火の達人がいるに違いない。
私はまだまだ足元にも及ばないけれど、とにかく今日は、薪ストーブの炉の中で燃え盛る炎を生み出すことに成功した。
今、山小屋全体が、ほんわりとした暖かさに包まれている。

今夜は薪ストーブの炎を見ながら、赤ワインで晩ごはん。
冷凍してあったラタトゥイユを解凍し、そこにソーセージをちぎってグリルで焼いた。
薪ストーブにはオーブンもついているから、慣れればそこでピザを焼いたりすることもできる。

村からどんどん人が里に下りてしまい、なんだか私は限界集落にいるようで心細くなったりもするけれど、これからは薪ストーブが私のそばにいてくれる。
火は、心も体も温かくしてくれる。

明日雨がやんだら、名残の夏野菜をいっぱい買ってきて、ラタトゥイユを作って冷凍しておこう。
秋には秋の、冬には冬の楽しみが、きっとあるはず。