ナビ子さん

どうもナビ子さんと呼吸が合わないのだ。
もう7000キロも一緒に走っているのに、相性が悪いとしか思えない。

先日も、のっけからナビ子さんの指示を無視して、反対方向に進行したら、その後、延々と遠回りをさせられた。
だって、ナビ子さんは右に行けと言うが、左に行った方が断然近道なのだ。
それは自分でわかっているのだけど、そこから先の詳しい道はわからない。
だから、ナビ子さん、あなたに頼ったのに。
あなたなら絶対に近道を知っているはずなのに、何故あんな山道に私を迷い込ませたのですか。
もう、あれは完全にナビ子さんが言うことを聞かない腹いせに、嫌がらせをしてきたしか思えないのだ。
結果、15分で着くはずの場所に、45分もかかってしまった。

私は、すぐそこまで行くのにわざわざ高速に乗りたくない、と意思表示しているのに、なんとしてでもナビ子さんは高速に乗せようとする。
かと思うと翌日は、早く行きたいから高速に乗りたいのに、下道で行けと指示を出す。
私のリクエストの仕方に間違いがあるのかもしれないけれど、二人三脚の相手としては、ナビ子さん、かなりブーだ。

こう生成AIとやらの技術が進んでいるのだから、ナビはもっと革新的に飛躍してもいいはずだと思うんだけど、なぜかナビ子さんは旧態依然としている。
そもそも、なぜナビ子さんだけなのか?
どうしてナビオ君はいないのか?
そこからして私は、釈然としない。
すご〜くいい声のナビオ君に案内されたら、もっとドライブが楽しくなるかもしれないのに。

そして、どうしてナビ子さんは標準語しか喋らないのだろう。
関西弁にしたり、鹿児島弁にしたり、お姉言葉にしたり、赤ちゃんに言葉にしたり、いろんなバージョンでアナウンスするくらい、簡単にできそうなのになぁ。

もう7000キロも一緒に走っているのだから、いい加減、私の好みを理解してくれてもいいと思うのだ。
たとえば、街中の道はあんまり通りたくない、とか。
雪の日だったら安全に通れる道を案内してくれるとか。

「ナビ子さん、今日は私、そんなに急いでいないから、景色のいい空いている道を楽しくドライブしながら目的地に行きたいの」
とか、
「あのねナビ子さん、今日はどうしてもその時間までに確実に着かなくちゃいけないのよ」
とか話しかけたら、その通りの道をすぐに選択して提案するくらい、今の技術だったらお茶の子さいさいだと思うのだが。
もしかしたら、私が想像もつかないような超高級車には、そんなナビ子さんが女将のごとく控えているのかもしれないけど。

明日はナビ子さん、よろしく頼みますよ!
なんといっても、お山を下りて里へ越冬しに行くんですから。
私はもう、今から祈るような気持ちなのだ。
早く、ナビ子さんと阿吽の呼吸になって、行きたい場所に何のストレスも感じずスムーズに行けるようになりたい。
それが今の私の、ささやかな願い。

明日のドライブでは誰をかけようかな。
最近よく聞いているオペラもいいけど、Vaundyもボリュームガンガンにして聞きたい気がする。
もちろんヒカルちゃんもいいし、久しぶりにスピッツもいいかもしれない。

明日の朝、山小屋を離れることを想像するだけで切なくなるから、なるべくそのことを考えないようにしている。
すべの時間が愛おしくて、愛おしすぎて、私はまだまだ山小屋にいたい気分だ。