長野県八つ墓村
どんなに寒くても、一日に一回は森に出て、コーヒーを飲んだり、鳥を観察したりしたいと思っている。
たいてい、それをするのは、食後。
朝昼ごはんを食べて、コーヒーを淹れたら、それを持って森へ。
今日も、カレー蕎麦を食べてから、マグカップを手に、いそいそと森の庭へ出た。
カラ松の切り株に腰掛けて、ホッと一息。
それから、マグカップを片手に、森を散策する。
と、少々異質な光景が視界に入った。
なんじゃあれは?
場所は、大きなもみの木の下。
最初は、枝だと思ったのだ。
でも、幹から枝のように突き刺さっている先にあるのは、ひ、ひ、ひ、ひ、ひづめだった。
ひづめ!?!
何?????
頭が混乱し、見間違いかもしれないしと、一度方向転換し、心を落ち着かせる。
自分のよくある錯覚であることを願いながら、再度、もみの木の下へ。
やっぱり、枝ではなくて、明らかに獣の足である。
そういえば、数日前、この辺りに3本脚の鹿がいるらしいと聞いていた。
その鹿の、脚だろうか?
でも一体、なぜこんな場所に突き刺さっている?
誰が??
最初に脳裏をよぎったのは、「呪い」の文字。
清々しい冬の森が、一瞬にして、八つ墓村になった。
ここが本当に八つ墓村なら、私はもうこの場所には住めない、と絶望する。
怖くて、想像するだけで恐ろしくなる。
そして次に考えたのは、鹿が幹に脚を引っ掛けたものの、脚が枝と枝の間に挟まって抜けなくなり、その脚がもげてしまった説。
でも、そうしたら鹿は騒ぐはず。
でも、ここ数日、鹿の悲鳴のようなものは聞いていないしなぁ。
もう、絵的には、本当にシュールとしか言いようがない。
だって、もみの木の幹から、ニョキッと鹿の脚が突き出ているのだ。
写真を撮れば、百聞は一見にしかずで、すぐに理解してもらえると思ったのだが、私にそんな勇気はなかった。
人間でいう肘から上の部分の肉は削げ落ち、肘から下はそのまま蹄まで残されている。
どうしよう、どうしよう。
挙動不審になりそうだった自分をなんとか落ち着かせ、然るべきところに電話をし、回収をお願いした。
自分でなんとかしろと言われたら、泣いていたかもしれない。
どうやら、珍しいことではないらしい。
罠にかかって取れてしまった脚などを狐などが見つけると、それを運び、ぶん投げて枝にかけたりするらしいのだ。
それを聞き、私は人による「呪い」でなかったことに、本当に本当に安堵した。
森では、予想もつかないことが、日々起こる。
そのたびに私は右往左往して、ほんの少し、自然を知ったような気持ちになる。
ここが、長野県八つ墓村でなかっただけで、今夜はぐっすり眠れそう。