食パン泥棒

天気予報を見ると、明後日から雨が続く。
いよいよ梅雨入りだろうか。
その前に薬草の苗を植えておきたいので、今日は朝からお庭仕事に精を出す。
午後は、苗を買いに里までひとっ走り。
二日連続で買いに行ったら、お店の人にびっくりされた。
ここぞとばかり、思いっきり大人買いする。

先日、ベルリン時代の友人が山小屋に遊びに来た。
まずは、駅まで迎えに行って、そのままお昼を食べにうどん屋さんへ。
もともとパン屋さんをしていたそうで、うどんを食べがてらパンも買える。
友人が、お土産にと食パンを買ってくれた。
うどんもパンも、どっちもおいしい。

その後、お店のある集落を散歩。
茅葺き屋根の民家の奥に、とても素敵な神社を発見する。
ものすごくいい気が流れていた。
それからコーヒーを飲みにカフェに立ち寄って、いつもの神社でお水を汲んだ。
その足で温泉へ寄って、お花屋さんに取り置きをお願いしていた植木をゲットし、夕方5時過ぎに山小屋へ到着。
まずは、外のテーブルで乾杯する。
私は、微発砲の白ワインを飲みながら、せっせせっせとお庭仕事。
植物たちに盛大に水をやり、なんとも気持ちのいい夕暮れを過ごす。

今年の夏至は、6月21日。
本当に日が長くなった。

辺りが薄暗くなってきたところで、山小屋へ戻った。
すると、ソファに何やら見慣れないものが転がっている。
小型のヘルメットみたいだけど、なんだろう?
拾い上げた瞬間、ギョッとした。
なんと、それはパンの耳のほんの一部。
ゆりねが、友人がカバンに入れておいたお土産の食パンを、ほぼ一斤丸ごと食べたのだ。
唖然として、言葉も出ない。
食パン泥棒は、しれっと明後日の方を向いている。

庭に出る前に、その日の晩ごはんもあげているのに。
ということはつまり、ゆりねは食パンほぼ一斤を、デザートとして食べたことになる。
恐ろしい食欲。
でもさすがに耳までは完食できなかったのか。

レーズンやチョコレートが入ったパンだったら、慌てふためくところだった。
プレーンの食パンだったので、かろうじて事なきを得たものの、これからお客さんがいらっしゃる時は、バッグに食べ物が入っていないか、重々気をつけていただかないといけない。
これじゃあまるで、人間の荷物から食べ物を奪っていく猿と同じ扱いではないかと途方に暮れた。
ゆりねちゃん、かわいい顔をしているけど、やることは恐ろしい。

仕方がないので、友人と、ゆりねが食べ残したパンの耳をほんの少しずつ分けあった。
なんておいしい食パン!
ゆりねは、さぞ至福だったはず。
夢中で食パンを貪ったゆりねを想像すると、ちょっとおかしいけど。
人生に一度くらい、そんな幸せを味わってもいいような、よくないような。
とにかく、これから気をつけないとだ。
特に、ゆりねはおいしいパンが大好物なので。

友人は、また3ヶ月ほどベルリンに滞在するという。
いいなー、いいなー、私もベルリンの空気を吸いたいなー、と思うけれど、実のところ、私は今、どこにも行きたくない。
とにかく、この森に身を置いていたい。
一日、二日離れるだけで胸が苦しくなるし、夕方温泉に行っても、早く森に帰りたくなる。
あと一ヶ月もすると森暮らしを始めて一年になるけれど、全然実感がわかない。
この一年は、本当に本当にあっという間だった。

なんだかこの一ヶ月、私の身に難題が次々と降りかかり、右往左往していた。
でも、だいぶ着地点が見えてきた。

とにかく明日は苗を植えて、梅雨の雨をたくさん浴びてもらい、少しでも逞しく大地に根を下ろしてほしい。
植物たちの成長を間近で見られることが、何よりの幸せ。
食パン泥棒は、ただ今ソファで爆睡している。