私もヤギになりたい

チューリップが咲いた。
かわいい。
咲いている姿がかわいくて、日に何度も見に行ってしまう。
去年の秋の約束を、ちゃんと守ってくれた。

そういう意味で、球根たちはとても義理堅い。
植えたら、約束を反故にすることなく芽吹き、花を咲かせる。
少し前までは全然音沙汰がなくて、もしや、と疑った自分を恥ずかしく思う。

道路沿いに、本当にたくさん植えた球根たちが、海に浮かぶアザラシの頭みたいに、ポコポコと顔を出している。
なんて平和なんだろう。
私はこの場所を、野原みたいなお花畑にしたいなぁ、と思っている。
通りすがりの人が、ふと足を止めて、植物たちを見てなごんでくれたらすごく嬉しい。

ノラコヤに仲間入りしたメェたちは、少しずつ環境に慣れてきたようで、高くジャンプするようになった。
そのうち柵を飛び越えてしまうのではないかと、ハラハラする。
なぜか、海も空もほとんど鳴かない。
ついでに言うと、ゆりねもほぼ吠えない。
みんな、すごく静か。
あんまり静かすぎて、逆に心配になって様子を見に行ってしまう。

夜が明けて外を見ると、もうメェたちは口をモゴモゴ動かしている。
日が沈む頃も、薄暗闇の中、口をモゴモゴ動かしている。
私はまだ、メェたちがちゃんと寝ている姿を見たことがない。

いつ寝ているんだろう、と思って調べたら、ヤギは2、3時間しか睡眠を取らないらしい。
それ以外の時間は、基本ずーっと食べている。
まさに、生きることは食べること、を体現しているのだ。
彼らが口に入れた植物は、やがてコロコロの糞になって再び地球に戻される。

動物性のものをヤギに与えると具合が悪くなるそうで、彼らは完全なベジタリアンだ。
なので私も、なるべくそれに追従している。
そうすれば、海と空に間違ったものを与える恐れがない。

道を歩いていても、あー、おいしそうな草が生えている、これは海ちゃんが好きな葉っぱだ、あっちは空ちゃんの好物だ、とついヤギ目線になる。
内澤旬子さんの著書に『私はヤギになりたい』という本があるけれど、私もまさに、ヤギになりたい、と思う。
なんだか、自由奔放で楽しそうなのだ。

海と空がやってきてから、ますます時間がゆっくり流れるようになった。
ただ生きている、というある種の潔さが、ヤギの一番の魅力かもしれない。