海と空の家

ついにノラコヤへ、海と空がやって来た。
母屋の東側に、かわいいヤギ小屋を作ってもらったのだ。
昨日、友人に協力してもらい、彼らをようやくお迎えに行ってきた。

手前の茶色い子が、海ちゃん(メス)。
奥の黒い子が、空ちゃん(去勢オス)。
共に、一歳だ。

ヤギは、仲間意識がとても強いという。
特に、同じお腹から生まれた兄弟同士は、親子の絆よりも強いとのこと。
海は珍しく一人っ子として生まれ、体も小さい。
その海と仲良くしていたのが空で、今回、2頭を一緒に連れてくることになった。
一頭だけだと、寂しがって鳴いてしまうそうなので。

他の群れから2頭だけを車の後ろに乗せて出発する時、見送る側のヤギたちが一斉に大声で鳴いた。
連れて行かれる海と空も、大声で鳴いた。
特に海の方が、車での移動中ずっと大声で鳴いていた。
今から思うと、あれは泣き叫んでいた。
それに比べると、空はすぐに鳴くのをやめ、じっとうずくまっていた。

最初は、去年の雑草があまりにもすごく、その草刈り要員として迎えようという軽い気持ちだった。
でも、いざ迎えることが決まって飼っている方たちの本やブログを読み進めるうち、だんだん気持ちが萎えてきた。
こんなにちゃんとお世話をするのは、私には無理だ。
しかも、皆さんが異口同音、除草が目的なら、ヤギよりも草刈機を持つ方がずっといい、とおっしゃっている。
更に、春が遅くて、まだ雑草が生えていない。
どうしよう、どうしよう、この1、2週間は半分パニックになっていた。

まず、小屋の中に敷き藁として置くための藁の入手から難儀した。
ノラコヤの周りに田んぼはたくさんあるものの、もう稲刈りの時期は終わっているし、あったとしても気軽に声をかけて藁を分けてもらえるような農家さんはいない。
今は機械で全部をまとめて収穫するのが主流で、そもそも藁自体、少なくなっているのだ。
手刈りで稲を収穫しないと、ちゃんと長いままの藁は残らない。
近くのホームセンターにも、藁は売っていなかった。

初っ端からつまづいたものの、なんとか藁を入手。
写真で見るとパウンドケーキの型くらいにしか見えないけど、実はこの入れ物、ものすっごく大きい。

次なる難関は、餌の確保。
雑草を食べさせようと思っていたのに、その肝心の雑草がまだ生えていないので、牧草を用意しなくてはならない。

とにかく、海と空のお腹を満たすためには、大量の牧草が必要なのだ。
なのに、ノラコヤの近くの農協には、今チモシー(ヤギの好む牧草)が品切れと言われ、途方に暮れる。
10日ほど前に確認した時は、あると言われたのだが。

そんなわけで、ふと閃いて山小屋の方の近くにある農協に聞いたら、こっちはあるとのこと。
ホッとしたのも束の間、今度は牧草のひとかたまりが30キロもあり、自力で運べるかどうか。
しかもこのチモシーだって、海と空の口に合うかわからないのだ。

能登から戻ってからの数日間は、てんやわんやだった。
東京への日帰り出張などもあり、本当に目が回るほどの忙しさだった。

だから、無事ノラコヤまで海と空を運び、新築のヤギ小屋へ移せた時は、心底ホッとした。
ノラコヤの窓越しに、海と空が見えていると、なんだかものすごく心が穏やかになる。

それにしても、こんなに食べていいのだろうか、と思うくらい、海も空も食欲が旺盛だ。
基本、ずっとハミハミしている。
スイセンなど、ヤギが食べてはいけない植物もあるから気をつけないといけないが、とりあえず今のところは、残ったお茶っぱや野菜くず、リンゴの皮など何でも食べてくれるので、巡る暮らしをしたい私にとっては、大変ありがたい存在だ。

海と空の糞は、そのまま畑の肥料になるし、これから少しずつヤギとの心地いい距離感を探っていけたらと思う。
もう少し気温が高くなれば、草も生えてくるだろうし。
案ずるより産むが易し、だった。

なんだか、海と空がいるだけで、とても大らかな気持ちになる。
ゆりねは、初めてのヤギとの遭遇に戦々恐々としているけれど。
そのうち、仲良くなってくれるといいな。
一緒にみんなでお散歩もできたらいいな。

ちなみに、海と空はレンタルヤギさんだ。
そのまま引き取るという選択も可能だけど、とりあえずヤギと暮らすとはどういう感じなのかを、この二ヶ月で存分に体験するのが今回の目的である。

なーんてのんびり日記を書いていたら、さっきヤギ小屋の柵の扉が開いていて、海と空がノラコヤの庭を探検しに出かけていた。
私がうっかり鍵をし忘れてしまっていた。
危ないところだった。

とにかく、この二ヶ月が、愛と平和に満たされますように。
海と空が、体調を崩したり事故に遭ったりせず、ノラコヤで無事に楽しく過ごせますように。