本能

ヨーロッパに荷物を送るのに、ロシア上空が通れないため、船便だけになってしまった。
人をのせた飛行機は、ぐるりと遠回りして日本と行き来しなくてはならない。
今まで、手紙とか小包とか、1週間から10日ほどでヨーロッパまで届いていたのに、もう気軽に手紙すら送れない。

東日本大震災から11年が経ち、コロナからも2年。
思いもよらないことが立て続けに起こっている。
そして、戦争。
多分これからも、思いもよらないことがドミノみたいにどんどん加速度を増して起こるのかもしれない。
だから私は、とにかく本能を鍛えようと思っている。
こういう時代に必要なのは、人間が本来持っていて、けれど使わないうちに鈍くなってしまった本能だと思うから。

左脳は、論理的に思考するのを得意とする。分析したり、計算したり、言葉で理性を司どる。
一方の右脳は、直感や感覚で、直接ハートで感じるのを得意とする。
左脳で知識を得ることができるのに対し、右脳では叡智を養うことができる。

私が鍛えたいのは、右脳だ。
分析したり、冷静に客観的に判断するのはもちろん大事だけれど、左脳でっかちになると、感覚が鈍ってしまう。
これからの時代、左脳はコンピューターに任せておけばいい。

東京オリンピックには、ずっと反対だった。
反対だったし、なぜかわからないけれど、何かが起こって開催されないんじゃないか、という予感がずっとあった。
予感というか、それは確信に近い感覚だった。
でもまさか、流行り病だとは思わなかったけど。
「何か」は、世界的なものだろう、ということだけはわかっていた。

2年前、まるで背中を押されるような形でベルリンを去り、その後、アパートも引き払ってしまったのだが、最近、それでよかったのかもしれない、と思うようになった。
あのままベルリンに残っていても、私はそこでの暮らしを楽しめていなかっただろう。

日本に戻って、タイミングを見計らいながら、今まで目を向けていなかった日本のいろんな場所を訪ねた。
灯台下暗しとはまさにこのことで、私は自分の足元にこんなに素晴らしい自然や人や文化があることに、改めて気付かされた。
多くの人が感じているだろうけど、コロナは決して、悪い側面ばかりではなかった気がする。
立ち止まることも、大事だ。
大切なのは、恐れることではなく、気づき、そこから学ぶことなんだな、と思う自分がいる。

今週は、一泊二日で能登に行ってきた。
取材先が、ちょうど七尾の一本杉通りにあったので、一瞬だけだったけど、駆け足で鳥居醤油店さんの暖簾をくぐった。
そして、数年ぶりに正子さんと再会した。
正子さんは、私を気軽に「糸ちゃん」と呼んでくれる、数少ない人。
知り合ったのは、12、3年前になる。
正子さんは、能登の塩と大豆と小麦を使って、昔ながらの製法でお醤油を作っている本当に素敵な女性だ。
風通しが良くて、まるで暖簾みたいに、ふわりと迎え入れてくれる。

一瞬の再会だったけど、ひょっこり訪ねて本当によかった。
元気な正子さんと再会できて、私も元気をいただいた。
今度はゆっくりプライベートで能登を訪ねて、正子さんのお店の近くにできた和食屋さんをご一緒したい。

今日は、ベルリン時代のお客さま。
最近、ちらほらベルリンから一時帰国する友人が増えている。
さすがに2年以上も家族や友人に会えないのは堪えるのだろう。

昼間、久しぶりに窓を開け放って料理を作った。
やっと、やっと、春。
沈丁花の香りがする。

今夜のメニューは、

能登のお土産の昆布巻き
芹をたっぷり入れた卵焼き
コロッケ
菜の花の粕汁
ちらし寿司
デザートは、柑橘のゼリー

料理も、左脳ではなく、右脳を使って本能で作ると魂に響く味になる。

本能で生きている、お手本がこの子。
冬の間トリミングをしないでいたら、丸々太った子羊みたいになっている。