最初の一歩
朝から雨。
シルバーウィーク中も、一日だけ見事な秋晴れの空があったものの、あとは基本的に雨、雨、雨。
オハナの避妊手術の頃から雨ばかり続いていたから、かれこれ1ヶ月間、ずっとこんなお天気なのだ。
洗濯物は、ほとんど外に干せていない。
温泉のサウナでも、お米の刈り取りのタイミングが難しいと、おばあさん達が嘆いていた。
田んぼでは今、美しい黄金色をした稲の穂が、多くの実りをつけて風に揺れている。
連休中、オハナは目まぐるしく進化した。
これまでは、オハナ、どうしても階段を上ることができなかったのだ。
最初の一歩を、踏み出せずにいた。
だから、ノラコヤでも山小屋でも、ずっと一階にいて、常に下から私を見上げていた。
ゆりねは2階、オハナは1階を居住スペースとしていたため、家庭内別居の状態が続いていた。
ところが、である。
これまでも、ほんの数回、2階にオハナを上げたことはあった。
その時は、オハナのハーネスを私がぐいっと持ち上げて、オハナもおっかなびっくり、一段ずつ不格好に階段をよじ登っていた。
更に大変なのは下りで、オハナは怖いのか、毎回、尻尾を股の間に巻き込んで、背中を丸め、階段から遠ざかろうとする。
もう、私が力づくで引きづるようにして、無理やり階段を下ろしていた。
だから、オハナは自力では一生、階段は上がれないと思っていたのに。
エリザベスとなり、オハナは身軽になった。
最初は、私がハーネスを支え、そのうち最初だけハーネスを持つと、あとは勝手にヒョイっと上がれるようになり、ついには私が何もしなくても、一緒にならついてくるようになった。
そして最近は、私がいなくても、自力で階段を上がってくる。
あんなに怖がっていた降りもなんのその、タタタタタ、と軽快なリズムで下りてしまう。
逆に、あんまりスムーズでそのうち脚を踏み外すんじゃないかと怖くなるほど。
こんなに短期間で進化を遂げるとは、驚くばかりである。
見ていると、最初の一歩を意識するかしないかで、階段を上れるかが決まってくる。
意識せず、私についてくればそのままスーッと上まで来れるのに、階段があると意識してしまうと、そこで脚が止まり、動けないのだ。
無意識でいることが、いかに大事か。
オハナを見ていて、改めて思い知らされた。
普段何気なくやっている行動も、急にカメラを向けられるとぎこちない動きになったり。
普段話しているような話題でも、多くの聴衆を前にすると途端に言葉が出なくなったり。
だから、俳優さんは特別な能力を持っているのだ。
人前でも意識せずにいつも通りの振る舞いをするというのは、想像以上に難しかったりする。
雨が降っているので、今日は一日山小屋にこもって読書をしている。
読んでいるのは、奥山淳志さんの『カナシイホトケ』。
ふと顔を上げると、ゆりねとオハナが同じ格好で寝ていたりすると、しみじみ、幸せを実感する。
オハナが階段を上り下りできるようになり、2階にいる時間が増えたことで、俄然、家族としての連帯感が増した。

オハナは来月2歳になるけど、中身としてはまだまだ赤ちゃんだ。
仕方がない。1歳半になるまで、家庭犬としての生活は送ってこなかったのだから。
いくら注意しても私に飛びついてくるし、まるで静電気のように私の体にまとわりついて離れない。
十も違うのだから当然だけど、ゆりねと比べると、明らかに落ち着きがない。
でも、確かにゆりねにも、こんな時代があったなぁ、と懐かしく思う。
今、オハナはここで赤ちゃん時代をやり直しているのだろう。
次の課題は、マテとオスワリだが、これもそのうち難なくできるように、きっとなる。
せっかくレインコートを新調したのに、シートでおトイレもできるようになったのだし。
新生オハナは、前途洋々である。
そうそう、オハナの脚が、やっぱりなんだか鳥みたいで笑ってしまう。
これまでは、毛がモサモサでわからなかった。
やっぱり、ハシビロコウの血が入っているのか。

もうすぐ、ゆりねとオハナが出ているブルータスが発売になる。
あの頃の、ナマハゲ時代のオハナはもういない。
あれはあれで、かわいかったけど。

