春の兆し
朝、新聞を開いて愕然とした。
ムハンマド・マンスールさんが亡くなったという。
彼はガザから命懸けで現状を伝える、ジャーナリストだった。
マンスールさんが書いた記事の言葉には、いつだって血が通っていた。
胸の芯に響く言葉は、ほとんどすべて、マンスールさんのものだった。
彼のおかげで、私はガザの現状を知ることができていた。
そのマンスールさんが、イスラエルによる攻撃によって、命を落とした。
まだ、29歳。
一緒にいた妻と、生まれたばかりの息子も消息がわからない。
イスラエルのやっていることのどこに、正義があるのだろう。
あまりに非道すぎないだろうか。
イスラエルとパレスチナでは、怪物と蟻くらい力の差が歴然としている。
私の目には、怪物が蟻を痛めつけているようにしか見えない。
ジャーナリストが犠牲になるのは、マンスールさんで207人目だという。
今日は、あまりにも悲しすぎる。
こんなことを許して、この先、世界はどうなってしまうのか、暗澹とした気持ちになった。
夕方、ゆりねと森を歩いた。
沢の近くを通ったら、水の流れる音が聞こえてくる。
雪解け水が、動きはじめたのだ。
今日は森も暖かくて、パーカーだけで十分だった。
もう手袋もいらない。
数日中に、雪はとけてしまうだろう。
春の兆しが、あちこちにある。
束の間、マンスールさんも春の兆しを感じていただろうか。
私は彼にお会いしたこともないけれど、まるで、古くからの知人を失ったような喪失感で胸がいっぱいなのだ。
まだまだ、ガザから伝えたい言葉がたくさんあっただろうに。
なんとなくそういう気分だったので、夜はインスタントラーメンを食べた。
美しい音楽を聴いていたら、涙があふれて止まらなくなる。
今週末、私は能登へ。
再会の旅だ。
自分よりもずっと辛い思いをしている人たちを前に、泣かないようにしようと心に誓う。
人が人にしてあげられることなんて、本当にたかが知れている。
今日は、自分の無力さを痛感した。
せめて自分にできることをしようと思って、この日記を書いている。