抱擁力

先週末から里にいる。
ほほぅ、これが噂の「酷暑」かとすぐに納得した。
確かに、室内から一歩外に出れば、そこはミストサウナ状態だ。
車でおりてくる時、北欧から一気にハワイにやって来た気分になった。
海、そして椰子の木。
海外旅行をしているような、ふわふわした気持ちが続いている。

里に来る少し前、友人に精油を送った。
歳の離れた、大切な大切な心の友が、旅先で怪我をして骨折したという。
骨折にはヘリクリサムとミントの精油が効くので、とにかく試してみてほしかった。
一緒に、彼女の大好きなイランイランのクリームも作って準備した。
イランイランは、心にできた深い傷を大きな愛で優しく包むように癒してくれる。

送るのにちょうどいい小さな箱がないかと探したけれど、見つからない。
それで丈夫な作りの紙袋に入れ、その隙間に庭のタイムをたっぷり詰める。
目もダメージを受けているとのことだったので、あえて、メッセージカードも手紙も添えず、取り急ぎ、それだけを送った。
どうか少しでも彼女が楽になりますように、と願いを込めて。

翌日、彼女からラインでメッセージが届いた。
タイムに顔をうずめ、初めてひとりで涙を流したという。
ずっと堪えていた感情が、タイムによって出口を見出したのだと思う。
ただ、私はプチプチの代用品として、そばにあったタイムをわっと入れただけだったけど。
タイムたちが、私の気持ちを言葉以上に巧みに運んで、彼女に伝えてくれたのかもしれない。

改めて、植物の持つ抱擁力を感じた。
正確には、包容力。でも、今回の場合は「抱擁力」とした方がしっくり来る。
私に代わって、植物たちが彼女を慰めてくれたのだ。
本当に、植物たちの力は偉大である。

『小鳥とリムジン』で描きたかったこと。
それは、人間の持つ生命力や、自然治癒力について。
本来、誰しもが生まれながらに持っているものだと思うけれど、意識してそれを守っていかないと、現代のような生活スタイルでは、知らず知らずのうちに目減りしてしまう。

人が、本来持っている底力のようなもの。
自分で自分の傷を癒す力。

植物たちは、それを促すというか、後押ししてくれる存在なのではないだろうか、と森で暮らすようになってから多くの場面で感じるようになった。

偉大なる植物たち。
私はすでに、森の木々たちや草花が恋しくて恋しくて仕方がない。
早く、森に帰ろうと思う。