乙女百合ちゃん
台風の影響で雨が続き、丸2日、森と庭に出られなかった。
その間に、乙女百合が咲いた。
まさかと思って女石さんの前まで行ってみたら、たった一輪、乙女百合が咲いていたのだ。
またの名を、姫小百合。
山形県を含む東北の一部にしか自生していないユリで、淡いピンク色の可愛い花だ。
数あるユリの中でも、私はこの乙女百合が一番好きかもしれない。
森で暮らすようになってから、ユリが大好きになった。
それまで、ユリの花は匂いが強いし、どうも仰々しくて、あまり好ましく思っていなかった。
でも、夏のある日、森の奥で、木漏れ日を受けながら人知れず咲く一輪のユリの花と出会って、ユリの花に対する印象がまるで違うものになった。
もうこの世のものとは思えないほどの美しさで、清楚で、かつ凛として、そうか、これが本来のユリの姿なのかと悟った。
お花屋さんのガスケースに高級花として売られているユリは、同じユリでも意味が違うのだ。
ユリは断然、大自然の中で、しかも森の中に咲くのがふさわしいと思う。
乙女百合は、絶滅危惧種とのこと。
どうか、この星から姿を消さないでほしい。
ところで、私は自分の敷地の森を、自分にとっての聖地にしようと思っている。
大きな石がたくさんあるが、その中でも特に神々しい石を三つ選び、女石、男石、子石と名づけて敬っている。
きっと、昔の人たちもそうだったんじゃないかと思うのだ。
先日、用事があって出向いた先の近くの小さな神社に立ち寄ったら、苔むした大きな石の上に、小さな石の祠がのっていて、その祠もまた同じように苔むしていた。
どのくらいの時間をかけてそうなったのかはわからないけれど、おそらく先人たちも、なんとなくこの石には神々しい気配を感じるから、これを神様にしようと決め、そしてそれを長い年月をかけて崇め続けた結果、そこが聖地になったりしたのだと思う。
男石と子石に関しては何も手をかけていないけれど、一番のリーダー(?)格である女石に関しては、女性でもあるので、石の周りや上に花を植えている。
乙女百合ちゃんは、その中でも一番大事な場所に植えた大切な花だ。
去年は植えてすぐシーに食べられた。
だから今年は、万全の体制で、シー対策に励まないと。
これからしばらくは、乙女百合ちゃんを守る会の活動が忙しくなる。
明日は一日なので、女石様に日本酒を捧げ、月一度の正式なお参りをする。
石の周りをきれいにし、お酒を供えると、なんとなく、女石さんも喜んでいるように感じる。
そうやって、月日を重ね、祈り続けていれば、いつか、聖地になるんじゃないかと。
雨が続き、森の木々だけでなく、石や苔たちも、大喜びしている。