コブシ

およそ三ヶ月の「冬眠」を経て、めでたく森暮らしを再開した。
朝、5時半過ぎに起き出して、日の出を拝む。
外の気温は、マイナス15度。

それでも、だいぶ朝が早くなった。
窓の向こうに広がるのは雪景色だけど、光には春の兆しを感じる。

前回山小屋に来た時より、幾分コブシの蕾が膨らんでいた。
コブシは、かなり前、おそらく秋の始め頃から小さな蕾ができ、寒空の下でじーっとじーっと耐えていた。
春になったら、真っ先に花が咲くと聞いているので、私はその時を待ちわびている。
決して立派な枝ではないけれど、本当に健気な姿で枝を空に向けている。

コブシは、漢字で書くと「辛夷」だけど、私はどうも「拳」を連想してしまう。
ぎゅーっと、手のひらを固く固く握りしめて寒さに耐えている。

初日の出を拝みながら、これからの森での日々の無事を祈った。
本当に本当に美しい朝。

青空が気持ちいいので、朝から鳥たちにひまわりの種を振る舞う。
長らく不在にしていたから、もう忘れられているかもしれない。
餌箱にたっぷりと好物のひまわりの種を入れて、いつもの場所で「開店」した。
耳を澄ますと、遠くの方から、鳥の囀りが聞こえる。

しばらく様子を見ていると、じょじょに森が賑やかになった。
餌を見つけた鳥が仲間を呼んで、ひっきりなしに餌台からひまわりの種をついばんでいく。
たいていの鳥は、一瞬だけ餌台に止まってすぐに他の鳥に場所をゆずるのだが、中にはジャイアンみたいなのがいて、長時間そこに居座り、自分だけ独占して餌を食べている。
その鳥は、確かに恰幅がよかった。
餌箱にひまわりの種がなくなると、鳥たちは地声でビャービャー鳴いて、私におかわりを要求する。

今、冷凍庫に保存しておいたトマトをコトコト煮て、トマトソースを作っている。
明日はお客さんなので。
駐車スペースを確保するため、一仕事するか。
まだ雪も残っていることだし、しばらくは無茶をせず、森の空気に体を慣らそう。