オハナ

連休初日、関西までオハナを迎えに行ってきた。
本当に迷いに迷って、逡巡に逡巡を繰り返し、もう一匹、犬を育てることにしたのだ。
名前は、オハナ。ハワイの言葉で「家族」を意味する。

子犬ではない。
パピーを迎えたら、それこそゆりねが動揺する。
それに、子犬の時期の犬のかわいさは、ゆりねでもう十分すぎるほど味わっている。

オハナは、一歳半の女の子。
とにかく、理解力のある、賢い犬が欲しかった。
犬種は、スタンダードプードルとゴールデンリトリバーの雑種だ。

大きいだろうとは思っていたけど、実際に対面したオハナは、想像以上に大きかった。
移動用に大きめのクレートを用意してって、大正解。
車に乗せてから、多少ガシガシやっていたけど、思っていたよりはずっとお利口にしてくれた。

夕方、無事にノラコヤヘ。
ペットホテルに預けていたゆりねも合流し、まずは家族全員がノラコヤに勢揃いした。
海と空も、これまででもっとも長い一日半のお留守番を耐えてくれた。
ゆりねとオハナの顔合わせは、明日以降、両者が落ち着いてからということにする。

と、そこまでは順調だったのだが、いざオハナを外に連れ出そうとしたら、歩けない。
オハナはこれまで犬舎から一歩も外に出たことがなく、お散歩もやったことがないのだ。
当然、リードもつけられたことがない。
本当にごくごく狭い世界しか知らずに生きてきたのだ。

散歩をさせたいというより、トイレをさせたかった。
でも、緊張しているのだろう。全然するそぶりがない。
仕方がないので、トイレはしないまま、夜はクレートに入れて休ませた。

ものすごい遠吠えが響いたのは、夜中の何時頃だったのだろう。
私はそれが、遠吠えだとわからなかった。
というのも、本当に奇妙な叫び声だったのだ。
最初は、鼾かと思ったのだけど、今から思うと、あれはオハナの魂の絶叫だったのかもしれない。

物音に気づいたゆりねが、激しく吠える。
その声に、オハナが反応して、ますます吠える。
ものすごい吠え合戦で、私はなす術なく立ちすくんだ。
まぁ、勝ったのはゆりねだったけど。
そんな訳で、私は一睡もできなかった。
果たしてこの先、ゆりねもオハナも幸せにできるのだろうか、そんな不安で胸がいっぱいになる。
おそらく、オハナもほとんどずっと起きていたはず。

ただ、オハナは本当に賢くて、飲み込みが早い。
昨日は全然歩けなかったのに、だんだん横について歩けるようになってきた。
ものすごい進歩だ。

定期的に外に連れ出し、トイレを促す。
でも、なかなか出なくて途方に暮れる。
それが、二日目。
ゆりねとは、まずは網戸越しに対面させた。

夜も再度、クレートに。
途中、オハナが脱出を試みて外に出てしまったので、別のクレートに入れ替える。
夜泣きと遠吠えは、一度だけ。
ゆりねも、その時に一度だけワン!と一喝した。
私は、ようやく眠ることができた。

そして迎えた三日目の午後。
オハナを信頼し、私がリードを持ったまま、ノラコヤの一階を自由に歩かせてみた。
多分、私が彼女を信頼したというのを、オハナはちゃんと感じ取ったのだろう。
ものすごく誇らしげに、部屋のあちこちの匂いを嗅ぎ回った。

私が一番気にしていたのは、ノラコヤの建具が紙でできており、壁も土壁だということ。
体力のあるオハナが引っ掻いたら、すぐにボロボロにされてしまう。
最初は家具を齧るとも言われていた。
でも、オハナは全くそういう悪さをしなかった。
この場所は静かに穏やかに過ごす所だ、というのをそれまでの時間で理解してくれたのだと思う。

生まれてから、一種類のカリカリフードだけしか食べたことがないので、私の食事にも全く興味を示さない。
私が食べる背後で、じーっとおすわりをして待っている。
水を飲んだ後に私がタオルで口の下を拭いてやるのを何回かやったら、自分でそれもできるようになった。

夜は、思い切ってもうクレートに入れるのはやめた。
もしノラコヤがめちゃくちゃになっても、その時はその時と腹を括る。
どうやらオハナは、階段を上がれないようなのだ。
そうすれば、2階はゆりねのスペース、1階はオハナのスペースと分けることができる。
そうできれば理想的だけど、めちゃくちゃトレーニングをしないとそんな状態にはならないだろうと思い込んでいたら、期せずしてそれができてしまった。

電気を消して、私とゆりねが布団に入ってからも、オハナは階段を上がってこない。
睡眠不足が蓄積していたせいで、私はコトンと眠りに落ちていた。

夜中、ちょっとだけ物音がするのでオハナの様子を見に行くと、トイレシートにウンチがしてあった。
素晴らしい!!!
オシッコは、マットの方にしちゃっていたけど、そんなの洗えば問題ない。
それよりも、トイレが所定の位置でできたことに、私は本当に感動した。
これでもう、一安心だ。
あとは少しずつ、外でも排泄ができるようになってくれればパーフェクト。
オハナ、よく頑張ったね。

この三日間で、信頼することの大切さを学んだ。
家族にする犬をオハナにして、本当に本当に良かったと心から思う。
まさか、たったの三日間で、ここまでの日常生活が戻せるとは、全く期待していなかった。
それもこれも、ゆりねとオハナが共に頑張ってくれたおかげである。
今、オハナは下にいて、ゆりねは私の膝の上におり、私は2階の仕事机でこの文章を書いている。

オハナはきっと、ものすっごく心の広い、優秀で優しい犬になるだろう。
ゆりねがいて、海がいて、空がいて、オハナがいて、私、もう気絶してしまいそうなくらい、幸せだ。
ここからはもう焦らずに、少しずつ少しずつ時間を積み重ねて、家族になっていこうと思う。