ひっぱりうどん

去年の秋以降、頻繁に食卓にのぼっているのが、ひっぱりうどんだ。
これは、山形に古くから伝わる郷土食。
細いうどんを湯がいて、鍋ごと食卓に出す。

温暖な地域に暮らす人には想像もつかないかもしれないけれど、本当に寒いと、鍋からどんぶりに麺を移している間に、麺が冷めてしまう。
それに、冷たいどんぶりに入れたらそれだけで麺が冷えてしまうから、もうそのままドーンと鍋ごと食卓に載せてしまうのだ。
釜揚げうどんにも似ているけれど、ひっぱりうどんの方がもっと土着的というか、暮らしに根付いた食べ物の気がする。

うどんを茹でている間に、タレを用意する。
まずは、ひきわり納豆。
最近、ひきわり納豆が簡単に手に入るようになり、種類も豊富で納豆好きにとっては嬉しい限りだ。
ひとり1パック。
そこに、めんつゆを少々と、ねぎ、おかかなどをのせて、麺が茹で上がったら茹で汁を少し混ぜて濃さを調節する。
めんつゆがなければ、ただお醤油だけでもいい。

あとは、ひたすら鍋からうどんを引っ張り上げて、納豆に絡めながら食べる。
シンプルだけど、ものすごく美味しい。
わたしは「ひっぱりうどん」と呼んでいるけど、「ひきずりうどん」と言う人もいる。
どうやら、鯖缶を入れるのが主流のようだが、わたしは、ひきわり納豆だけで十分味が完成されていると思う。

鍋から上がる湯気もご馳走になって、食べていると、みるみる体が温まる。
簡単にできるし、寒い日はひっぱりうどんに限るのだ。
毎日だって食べたくなる。

ひっぱりうどんと並び、もうひとつ、最近よく作って食べているのが玉こんだ。
こちらも、山形のソウルフードで、駅の売店でも売っているくらい、ポピュラーな食べ物。
ご飯のおかずというより、おやつ感覚で玉こんを食べる。
丸いこんにゃくをいくつかお団子みたいに串に刺して、辛子をつけていただく。
子どもから大人まで、みんな玉こんが大好きだ。

美味しく作るコツは、とにかく余計な手を加えないことで、私の場合は、お醤油だけで味付けする。
まずは水から出した玉こんを鍋で空炒りして水分を飛ばし、あとは強火のままお醤油を回しかけて煮詰めるだけ。

今日みたいに、冷たい雨の降る日、買い物にも行けないし、どうしようという時は、玉こんがあると重宝する。
しかも、こんにゃくだから、とってもヘルシーだ。
ひっぱりうどんにしろ、玉こんにしろ、一見雑なように見えて、でもこういう素朴な食べ物の方が、飽きずに何回でも食べたくなる。
寒いからこそ、生まれた料理なのだろう。

昨日、今日と山小屋に関する本ばかり見ていたら、むずむずと雪山に行きたくなった。
見渡す限り雪に覆われた銀世界を、この体で味わいたい。
どこに行ったら、その望みが叶えられるかな?
スノーシューを履いて雪原を闊歩したい。