雪道デビュー
今日は、旧暦の元日。
お正月に相応しく、あっぱれな空だった。
季節的に、旧暦でお祝いした方がしっくりくる。
昨日まで、トリスタンが来ていた。
雪景色を撮影するため、またふらりとバンで現れる。
こっちも、雪に閉ざされていたせいで食料が乏しく、トリスタンが家にあった野菜などを持ってきてくれたので助かった。
薪ストーブの前で、ふたりで乾杯する。
一日目はグラタンを、二日目はチーズフォンデュを。
友人とこういう時間を過ごす時、山小屋を建てて本当に良かったと心から思う。
まさに、友あり、遠方より来たる、だ。
トリスタンと、モンゴルのゲルを借りて大草原で夏合宿をしたのは、もう15年くらい前になる。
私は、野菜が食べられないストレスで、トリスタンと同じゲルに寝泊まりしながら、明日こそ日本に帰ろう、明日こそ日本に帰ろう、と毎晩呪文のように念じていた。
夏の暑さはしんどいし、馬からは落馬するし、お腹は調子が悪いし、インターネットは繋がらないし、周囲はうるさいし、もう、本当に散々だった。
もう、ひたすらひたすら帰国の日を待ちわびるような毎日を過ごした。
ひとりだったら、絶対に根をあげて、予定を早めて膨れっ面で帰ってきていたと思う。
でも、傍にはトリスタンがいた。
やることがないので、毎日、近くの温泉(ほったて小屋に泥がためてあるような場所)に行って泥エステをやった。
それが、唯一のお楽しみ。
帰りは、マーケットで買ったプラスチックの柄杓で、温泉のお湯を飲む。
でも、その温泉への道がお花畑になっていて、それはそれは美しかったのだ。
結局、途中で帰らずに、予定通り一月近くモンゴルに滞在した。
今となっては、貴重な経験である。
お互い、あの過酷すぎる罰ゲームのようなモンゴルでの時間から、何か大切なものを学んだ。
そして、今それを実践している。
あの時はめっちゃしんどかったけど、でも、自分には必要な時間だったのだ。
それにしても、トリスタンは人生を楽しむ天才だ。
二日目、森に雪道を作ろうという話になり、当初はカンジキがあれば簡単だろうということでカンジキを探したのだが見つからず、結局自力で雪を踏んでやっていたら、途中からトリスタンがバンに積んで持ってきたスノボを持ち出し、それで簡単に雪道を作ってしまった。
大変だろうと思っていた作業が、あっという間にできてしまう。
今回は、スキーも木のソリも持ってきていた。
まるで、ドラえもんのポケットみたいに、トリスタンのバンからは何でも出てくる。
車中泊も慣れたもので、いざとなったらそこで寝れるだけの装備が整えてあるとのことだし。
どこでも生きていける人だ。
モンゴルのゲルに泊まったのは夏だったけど、日中はどうしようもない暑さなのに、夜は0度近くまで気温が下がった。
ある日、あまりの寒さに薪ストーブに火をつけようと試みた。
けれど、何度やってもうまくいかない。
そのうち、たくさんあったはずのマッチも底をつき、結局薪ストーブはあきらめて、寒さに震えながら布団を被った。
薪ストーブも満足につけられない自分自身に苛立っていた。
今回、私が山小屋の薪ストーブに火をつける様子をトリスタンが見ていて、「成長したねぇ」と褒めてくれた。
全くだ。
そういう面においては、自分でもずいぶん逞しくなったと思う。
お互い、モンゴルの頃より、生活面のスキルは格段に上がっている。
夜、満天の星空を見に、外へ。
雪道に寝っ転がって、星空を観察した。
あー、幸せ。
ゆりねもまた、成長している。
去年は、雪道を歩くことができなかった。
雪道を前にすると、脚が止まってしまうので、そういう場所では結局私がゆりねを抱っこして歩かなくてはいけなかった。
これでは、ゆりねの散歩にならない。
ゆりねは都会っ子なので、脚がびしょびしょになるのが嫌なのだ。
でも、今回、トリスタンと散歩に行ったら、ものすごいご機嫌で、ぴょんぴょん跳ねるように雪道を歩くことができた。
最高に嬉しそうにして雪の上ではしゃいでいる。
今回降った雪がサラッとしていて歩きやすかったというのはあるだろうけど、それでも、去年はできなかったことが、今年はできるようになっている。
すごいなぁ、偉いなぁ。
今年10歳になるゆりねは、人間でいったら結構ないいお歳なのに。
それでも、新しいことに挑戦して、それを楽しんでいる。
トリスタンが、最高の一枚を撮ってくれた。
これはもう、一生の宝物だ。
ありがとう、トリスタン!
今朝は、文庫『なんちゃってホットサンド』の発売を記念して、なんちゃってホットサンドを作った。
それから、旧暦のあけましておめでとう気分で、少し遠出して大好きなお湯の温泉へ。
夜は、昨夜作った参鶏湯と、トリスタンが持ってきてくれたパンドカンパーニュで、ドイツの白ワインを少々。
少しずつ形を変えていく雪景色を見ながら、昨日までの余韻に浸る。
改めて、この一年が、平和で光に満ちたものとなりますように!