満員御礼

コンコンコンコン。
2階のベランダで本を読んでいたら、耳慣れない音がする。
おや? と思って音源を探すと、一羽の鳥がモミジの木にかけた巣箱を嘴で叩いているのだ。
シジュウカラだ。
そのうち、入り口から中に入るようになった。
せっせと枯れ草などを運び込んでいる。
もしや、ノラコヤの巣箱を子育てをするための新居に選んでくれたのだろうか。
ツピー、ツピー、ツピーとなき交わす姿がかわいらしい。

ノラコヤの中には私とゆりねが、山羊小屋には海と空が、巣箱にはシジュウカラ夫妻がいる。
これでミツバチの巣箱にも入居が決まれば、満員御礼だ。
今のところまだミツバチアパートは空室だけど、来年こそは! と期待している。

先日、ゆりねと小学校の前を散歩していたら、校庭で遊んでいた女の子が私たちを見て声をかけてきた。
「お姉さんも犬も、かわいい」
小学生に、褒められちゃった。
私が子どもの頃は、「おばあちゃん」と「おばちゃん」の言葉の違いすら曖昧だったのに。
今時の小学生は、こんなふうに大人に気遣うものなのか。
ずいぶん進化している。

先週末は、合計3人の小中学生の女の子がノラコヤにやって来た。
最近の子はスラリと背が高くて、脚も長くて、一昔前の日本人とは明らからに体型が違う。
食べ物が変わり、生活する環境も違ったりして、この先もどんどん変化していくのだろう。
庭にある薬草を摘んでフレッシュハーブティーを淹れて出したら、意外や意外、女の子たちに好評だった。
子どもはハーブティーが嫌いというのも、思い込みだったかもしれない。
種類が増えて、今は大体10種類くらいの薬草を入れている。
その中には、山椒や紫蘇の葉っぱもある。
そうすると、いろんな薬草の味が混ざって、逆にひとつの味だけが突出しないから、飲みやすくなるのかも。
このごちゃ混ぜ適当フレッシュハーブティーは、大人にも大人気だ。

そして、朝一番に飲むのは、ほうじ茶ではなく野草茶になった。
スギナは相変わらず庭中に生えている。
苦土石灰というのを撒けばスギナはなくなるらしいのだが、その代わり別の雑草が生えてくるらしく、だったらスギナでもいいかな、と思う。
スギナ以外に、アシタバやヨモギも、乾燥させて、最後軽くフライパンで空炒りしてお茶にする。
もう少しして花が咲いたら、ドクダミもやってみようと思っている。
身近にある草が、しかも世間一般では雑草として忌み嫌われるような厄介者が、実は驚くべきパワーを秘めていて、おいしい野草茶に生まれ変わるのだ。
なんという、目から鱗。
ちょっとした手間さえ惜しまなれば、わざわざお金を出して買わなくても、すぐ足元で手に入れることができる。
ノラコヤの周辺は草だらけだし、薬草もたくさん植えてあるから、この先お茶は買わなくてもやっていけるかもしれない。

畑に植えた野菜たちも、だいぶ育ってきた。
昨夜は、わんさか増えているルッコラを収穫してピザにする。
以前焼いて冷凍しておいたピザ台にバジルソースを塗り、チーズをのせてオーブンで温め、そこにルッコラをのせるだけの簡単ピザ。
でも、これで十分おいしい。
キッチンガーデンがあると、ちょっとお味噌汁に薬味が欲しいな、なんていう時、ちょちょっと摘みに行けるので、それが便利だ。
ノラコヤができてから、ネギは買わなくても済むようになった。

ついこの間春が来て梅の花が咲いたと思っていたら、もう梅の実が落ちている。
ぼんやりしていると、全然季節に追いつけない。
ほんの少しだけ手に入った今年初の梅の実は、醤油に漬けて梅醤油にした。
なんだかんだと野良仕事が忙しくて、私とゆりねはいまだ里暮らしだ。

海と空は、なんとなんと、友人一家と共同親権でこれから先も飼うことになった。
今後は、ノラコヤとT家を行ったり来たりすることになる。
どうなることやらやってみないとわからないことも多いけど、とりあえず、また寒い季節になったら、海と空をノラコヤでお迎えする。

ヤギの寿命は十二、三年らしい。
どうか二匹が、天寿を全うできますように。
そのために、両家で力を合わせていこうと思う。