医食同源

オハナがわが家に合流して、ちょうど2週間が経つ。
あっという間だ。
その間にオハナはメキメキと進化を遂げ、飼い犬となるべく本来の能力を開発中である。

車にも怯えず散歩もできるようになったのだが、いまだ解決されていないのがトイレ問題だ。
いろんな試行錯誤を繰り返しつつ、トイレシートで排泄をすることは、覚えてくれた。
失敗することはあるものの、それは私が淡々と処理すればいいだけのことなので、大丈夫。

それよりも困っているのは、オハナが人前というか私の前で、排泄をしないこと。
オシッコはしてくれるのだが、大きい方をしている姿は、私自身まだ見たことがない。
どうやらこの犬種には無きにしも非ずの習性らしく、オハナは極限までトイレを我慢し、たいてい、明け方に誰も見ていない状況で踏ん張っている、らしい。

排泄は、家の中でも外でも、どちらでもできるようになるのが理想的だ。
もし外でしかトイレができない子になってしまうと、飼い主が散歩に出られない時や、犬自身が病気などで外に出られない時、なかなか苦労するのだ。
ゆりねの場合、どっちでもできるので、そういう意味ではかなり楽である。

夜明け前の排泄が定着してしまうと、私も大変になるので、昨日は、オハナの夕飯の時間を、今までよりも一時間ほど遅くしてみた。
そうすれば、ちょうどよく散歩の時間に排泄のタイミングがやって来る。

と思ったのだが、今朝、期待してオハナを外に連れ出すと、途中からものすごい勢いでノラコヤに帰ろうとする。
おそらく、大きい方をもよおしたのだろう。
その場でしてくれたらいいものを、トイレはやっぱり自分の家が一番リラックスしてできるということだろうか。
その感覚は、なんとなく理解できるけど。

結局、オハナがトイレをするために、一度ノラコヤに戻ってきた。
文句なしの、快食快便である。
もちろん、オハナが緊張しないよう、私は見ないようにした。
こうなってくると、オハナには、人からの視界を遮る個室のトイレが必要かもしれない。

これってやっぱり、人間と同じように羞恥心によるものなのだろうか。
オハナちゃん、そこまで恥ずかしがらなくても、いいんだけどねぇ。
賢くて大きい犬だと、こういう繊細な厄介ごとが、ままある。

当初、私はもっとてんやわんやすると思っていた。
だって、海のものとも山のものとも知れない、すでに一歳半になる中身は保護犬のワンコが、いきなり家にやって来るのだ。
ゆりねがストレスを抱え込まないかも心配だったし、ノラコヤの環境にオハナがどこまで順応してくれるかも未知数だった。
当分、仕事どころじゃないな、と覚悟していた。
でも、そこまでハチャメチャにはならなかった。

第一の功労者は、間違いなくゆりねである。
親バカを承知の上で言わせていただくと、私はゆりねほどの素晴らしい犬に、いまだかつて会ったことがない。
寛大で、穏やかで、優しくて、明るくて、犬に対しても人にしても友好的だ。
無駄吠えも、一切しない。
でも、明らかなマナー違反の犬に対しては、容赦無く怒る。
そういうことは滅多にないけど、たまに、挨拶もなくいきなり威嚇してくる犬がいたりすると、ゆりねは別犬の形相で怒りを露わにし、相手を叱りつけるのだ。
ゆりねは、ものすっごく正義感が強い。
でもって、その判断は本当に的確で、確かにあの態度は向こうが悪いよね、ゆりね、よくやった、と飼い主の私が感心するばかりである。

オハナに対しても、人恋しさにどうしても出てしまう夜鳴きに対しては無視するが、それが長じて無駄吠えになると、容赦無く一喝してその場を沈める。
そのジャッジは、お見事としか言いようがない。
オハナも、基本的には無駄吠えをしない犬なのだが、まだゆりねの境地までには至っていない。

昨日、遊ぼうと最初に誘っていたのもゆりねだった。
散歩から帰った後、まずはゆりねが低姿勢になって合図を出し、それにオハナも応じて、少しだけ室内で追いかけっこをしていた。
二匹が遊ぶのは、初めてのこと。
そのうち、海と空みたいに、ゆりねとオハナも少しは犬同士で遊べるようになるかもしれない。
ただし、その前にオハナには、相手が小型犬の場合の手加減を覚えさせる必要がある。
ゆりねとオハナが、特別に親密な姉妹になるとか、友情が芽生えるとか、そんなことは期待していないけど、でもオハナには、ゆりねからたくさんの要素を学んでほしいのだ。
そして、ゆりねのエッセンスが少しでもオハナに受け継がれたら、私は最高に幸せである。

当初から心がけているのは、ゆりねの生活を乱さないようにすることだ。
ゆりねが大切にしている、食事や、食後に私の膝の上でまどろむ時間、それに夜、一緒に私と寄り添って眠ること。
そういう行為はゆりねにとってはなくてはならない大切な要素だから、いくらオハナが来たからといって、阻害することは許されない。
そして、その合間を縫うような形で、オハナとの親密な関係を築いていく。

新しい犬を迎えるに当たり、もっとも気がかりだったのは、今まで通り仕事ができるかどうかだった。
これまでのように、朝の静けさの中での執筆の時間を確保すること。
それが私にとっては絶対に必要で、逆に言えば、その時間さえ確保できるのなら、後はもうどんなに騒がしくなろうが、大丈夫という心持ちだった。

オハナが来て、生活を共にするうちに、それを確保するには食事が肝になることがわかった。
やっぱり、おいしい食べものでお腹が満たされると、人間だけでなく、動物もまた、胃袋だけでなく心も満たされて、安らかなリラックス状態となり、結果として深く眠るようになるのだ。

自分自身が健康を保ち、動物たちも健やかでいてくれたら、日々のお世話というのは、慣れればそれほど大変ではない。
それが、ひとたび健康を害してしまうと、急に立ち行かなくなってしまう。
だから、とにかく元気な状態を維持すること。
元気もりもりでなくていいから、最低限の健康を維持できれば、まぁ、なんとかやっていけるような気がする。

医食同源とは、まさにそう。
だから、犬たちにもいい食事を与えることは、健康維持に繋がり、結果的にはその方が経済的であったりもする。
オハナも少しずつ、カリカリ以外の食べ物が食べられるようになってきた。
食べる喜びに目覚め、病気や怪我に強い、丈夫な子になってほしい。

そして、ベジタリアンの海と空には、大好物の椿の花をせっせと拾い集めては、あげている。

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