タトゥー

台湾との時差は1時間しかないので、時差ボケというのはないはずなのだけど、帰国した日は夜8時半前には就寝し、朝まで爆睡だった。
台湾の読者の方にお会いし、精神的にはとても充実した時間だったが、肉体的にはかなり疲れていたのかもしれない。
早朝、ゆりねのバタバタ運動会に起こされるまで、気絶したように眠っていた。

台湾にいる間、ノラコヤに植えたばかりの植物達が気がかりでしょうがなかった。
雨マークが続いていたので、苗を植えてしまったのだ。
そしたら、大どんでん返しでいきなり連日の晴れマークに変わった。
しかも、ものすごく気温が高く、心の中で苗達にごめんなさいと言い続けていた。

すぐにノラコヤに行って、生存確認。
どうやら朝露が急場をしのいでくれたらしい。
なんとか生き延びてくれていた。
昼間はきっと、喉がカラカラだったはず。
申し訳ないことをしてしまったと反省する。
里の残暑を甘く見ていた。

台湾は、3泊4日の短い滞在だったけど、自由時間もあったし、おいしい台湾料理もお腹いっぱい堪能した。
もちろん、おいしい豆花もいただいた。
アジアのお菓子というと、やたらめったら甘いイメージがあるけど、台湾のお菓子はどれを食べても程よい甘さで、それがとっても楽だった。
出版社の方が連れて行ってくださった茶藝館も、素晴らしかった。

父が台湾で生まれた影響で、父方の祖母の家に遊びに行くと、祖母が必ずビーフンを作ってくれたのだが、今回滞在中にいただいたビーフンはまさに祖母の味そのまんまで、ものすごく懐かしかった。
お菓子同様、台湾料理も淡い味付けで、とても食べやすい。

台湾の人たちは、タフで、情が深い。
今回の滞在中、一度もオジサン的な人物が登場せず、関わった方は全員が女性だった。
そしてそれぞれの女性が、ものすごく生き生きと仕事をしている。
それが、日本との大きな違いだと感じた。
台湾で、仕事上の男女格差はほとんど存在しないらしい。

夫婦別姓にしろ同性婚にしろ、台湾は日本のずっと先を歩んでいる。
選挙の投票率も、高い。
それぞれの人が、自分たちが社会を作っていくのだという気概に溢れている印象だ。

そんな台湾で暮らす、私の翻訳本を出してくださっている出版社の方々に、食事の席で聞いてみた。
「日本人や日本社会に、何か不満というか、改めて欲しいことがあったら、教えてください」

数秒後返ってきた答えは、「タトゥー」。

今や、タトゥーはファッションの一部で、台湾でも多くの若者達がタトゥーを入れている。
なのに、日本では、タトゥーを理由に温泉に入れなかったり、シールのようなものを貼って隠すよう強制されたりする。
もちろん、なぜタトゥーがダメなのかは、多くの台湾人も理解している。
でも、そもそも入れ墨とタトゥーは意味が違う。
そのことを、もうそろそろ日本人も理解して、タトゥーによる無意味な差別はやめていいのではないか、と彼女達の反応を見て、そう思った。

観光大国を目指すなら、こちらも改めるべきは改めて、外国からのお客様に気持ちよく滞在していただいた方が、結果的にはプラスなのでは?

だって、本当に多くの台湾人が日本を訪れているのだ。
台北からの直行便は、日本の各地に飛んでいて、台湾の人達の方がよっぽど私よりも日本に精通している。
東日本大震災の時も、本当に多くの支援をしてくださったのが台湾だ。
距離的にも文化的にも、日本と台湾はとても近しい関係にあることを実感した。

日本ですらなかなか読者の方にお目にかかる機会が少ないのに、海外の読者の方となると、それはもう本当に一期一会の貴重な機会。
そんな機会をいただいて、本当に幸せな時間だった。
また、新たな作品を書いて、台湾の読者の方にもお届けできますように。

それにしても、東京よりも台北の方が気温が低いって、どういうこと?
この夏の暑さは、理解し難い。

まつもと空港で一郎君(車)をピックアップし、その足でペットホテルに寄ってゆりねをピックアップし、夕方山へ戻ってくる途中、やっぱりこの場所が好きだとしみじみ思った。
森のカエデが、すでに赤くなり始めている。