スモールファーム

ハルゼミが鳴き始めた。
気温が上がってくると、森全体から賑やかな声がする。
夏の蝉より、ほんの少しお淑やかな鳴き方だ。
初めて聞く人は、カエルの合唱と思うかもしれない。
ハルゼミが鳴くと、梅雨が近いのを感じる。
ハルゼミは松林に生息するらしく、各地で絶滅危惧種となっているとか。

今年から、庭の一角に小さな菜園を作っている。
畳一畳にも満たない狭さだが、これがなかなか重宝している。
植えているのは、ジャーマンカモミールとレモンバーム、ルッコラ2種、ミツバなど。
最近になって、トマトとズッキーニの苗も追加した。
完全な砂地だし、どう育つのか育たないのかも未知数だけど、とりあえず、今のところはシーにも食べられず、順調だ。
シーがなるべく近づけないように、山小屋に一番近い場所を菜園にした。

食事を作っていて、ちょこっと何か足りない時は、迷わず菜園へ行くようになった。
行くといっても、ただ外に出ればいいだけ。
台所のすぐ近くに菜園があるのは、とてもありがたい。
昨日は、ルッコラとケールと椎茸を摘んできて、スープに加えた。

椎茸、去年ホダ木を3本作ってみたのだけど、明らかに多かった。
近頃はひょいひょいひょいひょい顔を出すので、食べるスピードが追いつかない。
どうやら、シーも食べない模様。
嬉しい悲鳴だけれど、来年からは1本で十分かも。
今、いろんな椎茸料理を試している。

今日、チョコアイスを作っていて、ふと、もしかしたら山椒と合うかもしれない、と閃いた。
だって、チョコとミントは仲良しだ。
だったら、山椒もいけるかも。
去年植えた山椒の木に、今、たっくさんのかわいい新芽が出てきている。
葉っぱからは、爽やかなものすごくいい香りがする。
利用しない手はない。
このままだと、ただ葉っぱが成長してしまうだけだ。

果たして結果は、大正解!
山椒チョコ、世の中にはすでにもうそんな商品があるのかもしれないけれど、私としてはヒットだ。
早速、紙のカップに入れたチョコアイスの上に山椒の葉っぱをのせて、冷凍した。

季節は、どんどん先へ先へと進んでいく。
一体全体その葉っぱをどこに隠していたのか、と不思議になるほど、森は今、初々しい新緑に彩られている。
朝はお茶を飲みながら森を愛で、夕暮れはワインを飲みながら再び森を愛でる毎日。

去年、私はシー対策として、たくさん薬草を植えた。
鹿が食べない、とされる薬草だけを植えたつもりだけれど、ネットの情報とかに頼ってはダメなのだ。
そこの鹿が食べないだけで、ここの鹿は食べる、というケースがほとんどだった。
だから、ここの場合はどうか、というのは、実際に自分でやってみるしかない。
そして、更に言うと、そのシーは食べないけど、このシーは食べるとか、個体によっても違うのだ。
当たり前だけど、一概には言えないのである。

私が去年せっせと薬草を植えていたのは、ある意味、そこにシー(鹿)フードを置いて、餌付けしているようなものだったかもしれない。
向こうからしたら、ラッキーな話だ。
その中のいくつかは、今年も顔を出してくれたものの、大半は、寒さもあって冬を越すことができなかった。
だから今年は、薬草でガードしようと思うのをやめて、しっかりと成長した樹木を植樹する方向に切り替えた。
それでも、闇雲に植えていてはまたシーフードになるだけなので、なるべく毒を持っている樹木、例えばツツジなどを植えている。

シーと闘うのは、やめた。
闘ったところで私が叶うはずもない、というのが結論で、それより少し譲歩し、今はシーとの知恵比べに挑んでいる。
なかなか難しい対決だけど、シーに食べられた植物に関しては、そこに植えた自分が悪かったとあっさり白旗を上げるようになった。
何年かして、私が経験を積んだら、シーとの透明な境界線で隔てられる庭になるかもしれない。

ここ数日、夕焼けの空がとてもきれいに見える。
基本、太陽の沈む西側に高い山があるので、夕焼けは見られないのだけど。
いろんな色が混じって、つい、じーっと見惚れてしまう。

ご近所さんが、庭で採れたワラビを届けてくださった。
薪ストーブに残っていた灰で、アク抜きをしている。
そうしょっちゅう買い物に行かなくても、その辺にあるもので胃袋が満たせるというのは、本当にありがたいことだなぁ。