きな粉と胡麻塩

海と空は、本当に仲がいい。
いつも、ピッタリくっついている。
その姿が、何だかつきたてのお餅のようなのだ。
まさに、きな粉と胡麻塩。
名前を海と空にしちゃったけど、きな粉と胡麻塩の方が、わかりやすいし覚えやすくてよかったかも。

雨が降らない限り、どんなに寒い夜でも、二匹は三角屋根のハウスには入らず、外で過ごしているようだ。
お互い体の向きを互い違いにして、相手のお腹に顔を埋めるようにしてじっとしている。
毎朝、水が完全に凍りついているほどの寒さなのに、外にいるなんて、なんて忍耐力があるのだろう。
その間、私とゆりねは、布団の中でぬくぬくしているというのに。
ヤギって、本当に我慢強い。

いじらしいのは、空の方が海を寒さから守っているように見受けられる点だ。
実際のところはどうかわからないけど、私には、女の子の海を、男の子の空がかばっているように見える。
朝、私の方が早起きだと、二匹はじーっとそのままの格好で、ぼんやりしている。
早く春が来て、青々とした草を思う存分食べさせてあげたい。

基本的にはとても仲のいい二匹だが、食べ物を巡る争いだけは壮絶だ。
私が、おやつ(配合飼料)を持って行こうものなら、二匹の間にただならぬ空気が流れる。
そして、一回り体の大きい空が、おやつを独り占めしようとする。
そこには、レディーファーストのレの字もない。
海が横から食べようとすると体を動かして邪魔をし、食べさせないよう意地悪する。
それでも海が食べようとすると、今度は頭突きで応戦する。
その迫力たるや、すごいものがある。
おやつも、仲良く分け合って食べてくれればいいのに。

ところで、今日、いつもの温泉に行ってゴシゴシ体を洗っていたら、いきなり、隣にいたおばあさんに、背中流してあげる、と言われた。
何度かサウナで一緒になったことはあるけど、親しく話したことはない方である。
戸惑っていると、「人に洗ってもらうと気持ちいいから」と、慣れた手つきで私のボディタオルを受け取り、私の背中をゴシゴシする。
「自分でも洗えるけど、たまにはいいでしょ。痛くない?」
私は、なんだか狐に摘まれたような気分だった。
昨日なかなか眠れず、お疲れモードが、周囲に筒抜けになっていたのだろうか。
「私も、お背中流します」
申し出たものの、「私はもう、洗っちゃったの。歳とると、あんまり強く洗っちゃダメなんだって」なんてことをおっしゃる。

確かに、自分でも洗えるけど、誰かに背中を洗ってもらうのは、また別の気持ちよさがあった。
たまに、親子でもなく、単なる常連のフロ友同士が、背中を流しっこしたり、服を着るのを手伝ったりしているのを見て、私は微笑ましい気持ちになっていた。
でもまさか、自分がその当事者になって背中を洗ってもらう日が来るなんて、思ってもみなかったのだ。
そんなのは、もっともっと先の遠い未来だと思っていた。

ほんの一瞬の出来事だったけど、私の背中は、とてもスッキリした。
ヌルヌルの甲羅を百年ぶりに洗ってもらった亀は、きっとこんな気持ちなのかもしれない。
私は、友人でも知り合いでも深い仲でもない誰かの背中を、あんなふうに流してあげることは、まだできない気がする。

温泉から帰ると、海と空が揃って柵の隙間から顔を出している。
なんてかわいい子たちだろう。
私は最初、空だけを引き取ろうと思っていたのだ。
でも、この二匹はすごく仲がいいので、と言われ、海と空をセットで迎えることにしたのだった。
それで、正解だったと思う。
こんなにいつも、寄り添っているのだ。
海と空は、きっと無二の親友なのだろう。