シエスタ記念日

オハナを迎えた春分の日から、遡ること一週間。
オハナ用の大きなベッドが届いた。
私がベルリンにいる頃から使っているベルリンのメーカーの犬用ベッドで、その店は本当に良い商品を提供している。
そこのベッドはベルリンでも使っていたし、ゆりねもいまだに使っている。
が、その大きな新しいベッドを階段下のスペースに置くと、ゆりねがそれを見て、ものすっごく悲しい表情を浮かべたのだ。

その夜、ゆりねが盛大に吐いた。
普段とは違う吐き方で、私はゆりねが全てを悟って、ストレスを感じているのだと理解した。
ゆりねに泣いて謝った。
もう、新しい犬を迎えるのはやめよう、と思った。

翌日、ゆりねをかかりつけの動物病院に連れて行った。
多頭飼いすることの難しさを改めて痛感し、先住犬であるゆりねにどれほどのストレスがかかるかも理解した。
10も歳の離れた犬を、しかも体の大きさが桁違いの犬と同じ屋根の下で過ごさせるのは、ゆりねにとっては相当のストレスだと言われた。
多頭飼いする場合は、多かれ少なかれ、先住犬に負担がかかる。

キャンセルするか、迎えるか。
気持ちはグラグラ揺れ動いた。
でも、最終的には自分の直感を信じることにした。
そして、どうしてもゆりねが受け入れられず、心身を害してしまうような事態になったら、その時はまた次の展開を考えようと腹を決めた。
迎える、と決心したのは、お迎え予定日から、わずか数日前のこと。
当初の計画を覆すことなく、オハナははるばる兵庫からノラコヤヘとやって来た。

因縁のベッドに、ゆりねはよく寝るようになった。
ゆりねには明らかに大きく、寝ていると下にずり落ちそうになる。
でも、これは私のベッドだからね! という態度をムンムン出して、オハナにはそのベッドを使わせないようにしていた。
オハナもそれを察して、自分は、ゆりねのお下がりの薄いマットの上に体を丸めて眠っていた。

ゆりねもオハナも、どちらも大らかで気立の優しい犬なので、明らかな喧嘩をするようなことはまずない。
でも、ゆりねは、すーっと先にベッドに上がって先手を打ち、オハナをベッドに近づけない。
その静かな攻防戦は、見ていて本当に見事だった。
ただ、明らかにゆりねがひとりで寝るには大きすぎる、キングサイズのベッドなのだ。
私としては、共同で使ってくれたらありがたいのになぁ、と思っていた。

でもそのうち、ゆりねが2階にいると、オハナもそのベッドに上がるようになった。
寝心地がいいのは、確かである。
ゆりねが寝ている時は遠慮するけど、そうでない時は、ようやくオハナのベッドになった。
2匹が一緒に寝たとしても、まだまだ十分なスペースがある。
いずれ、一緒に寝てくれたらいいのに、と密かに思った。

昨夜、オハナは一晩中ピーピー夜鳴きをしたまま眠らなかった。
さすがに私も、眠れなかった。
人間の赤ちゃんの泣き声同様、犬の夜鳴きもまた、胸に訴えるような切実な響きがあり、無視できない。
ここに来たばかりの数日間、オハナの夜鳴きと遠吠えがすさまじかった。
それまでにいた犬舎や一緒にいた仲間たちに対して、寂しさを必死に訴えていたのだろう。
その夜鳴きと遠吠えも、一週間くらいで治まり安堵していた矢先、また再開してしまったのである。

どうやら、今度のピーピーは、私に対して。
私との愛情や絆が深まるにつれ、一緒にいたい、寂しい、会いに来て、という切実な思いが、夜鳴きとなって表れたのだ。
行ってあげたいのだが、それをすると、鳴けば私が来ると学習してしまうため、私はじっと我慢して夜鳴きが治るのを待つしかない。
でも、昨夜はオハナも粘り強くて、本当に、一晩中ピーピー鳥みたいに鼻声で鳴いていた。
一体、どうしたものかと途方に暮れた。
オハナも、相当疲れたはずだ。

今朝、里の友人がオハナに会いにやって来た。
時間があるというので、ゆりねも一緒に散歩に繰り出す。
前回、ドッグトレーナーさんと一緒にふたりと2匹でお散歩トレーニングをした時も、オハナはゆりねにつられてよく歩いた。
ゆりねが、とてもいい形でオハナをリードしてくれた。

今日も、二匹は楽しそうに散歩した。
オハナは、夜の間ほとんど寝ていないので、消耗したのだろう。
私も、小一時間外を歩いたら、帰宅後、急に眠たくなった。
瞼が重くなり、そのまま因縁のベッドに横になる。

そこへ、まずはオハナがやって来て私とは逆の向きで横になり、続いてゆりねもベッドに上がってきた。
ゆりねは、私の右肩を枕にして眠り、オハナは私の膝を枕にして横になる。
両手に花じゃなくて、両手に犬状態だ。

そのうち、ゆりねはいびきをかき始めた。
オハナも、夢を見ているのかぴくぴくと、口元や脚を動かしている。
なんという幸せ。
幸せすぎて、結局私は一睡もできなかったけど。

ゆりねもオハナもあまりにもリラックスした表情で寝ているので、窓を閉めたりしたいのに、私は体を動かすことができず、そのままの体勢で至福の時間を満喫した。
極上のシエスタタイムだった。

そのうち、お互いの夢の中に相手の犬が登場して、一緒に遊んだり散歩したりするのだろうか。
今日は、庭に白小豆とホーリーバジルの種を蒔き、友人と犬たちと近所を散歩して、犬たちと昼寝をし、温泉に行って、それだけしかしなかったけど、最高に忘れ難い記念日になった。

今夜は、オハナが夜鳴きしないとありがたいけど。
オハナは今、必死でパピー時代をやり直しているのかもしれない。
ゆりねとオハナの顔が、だんだん似てきたような気がする。
どっちも、本当に愛おしい私の娘、みたいな存在だ。

(以下、時系列での写真になります。)