『あつあつを召し上がれ』
はじめての短編集です。
『旅』に連載した六編に、書き下ろし一編を加え、合計七つの食べ物にまつわるお話がおさめられております。
外国の港町でほんのひととき席がとなりになった老夫婦や、友人が何気なく話してくれたエピソード、たまに行くレストランの人気メニューなど、私が実際に見た景色や食べた味、足を運んだ場所などが、物語の種となりました。
中でも、「こーちゃんのおみそ汁」は、実在した女性、安武千恵さんの生き方に強く影響を受けて書いた作品です。
私よりも遅くこの世に生を受けた知恵さんは、乳がんを患い、私よりも早く、33歳という若さで、この世を去ってしまいました。
千恵さんは、亡くなる前、まだ幼稚園児だったお嬢さんに、おみそ汁の作り方を教えたといいます。
そして今、小学生になったお嬢さんは、毎日おみそ汁を作っているそうです。
生前の千恵さんとお会いすることはできませんでしたが、千恵さんの、まっすぐな強い生き方に、とても強く心を打たれました。
不思議な縁が幾重にもかさなって、まるで千恵さんに導かれるようにして書いたのが、「こーちゃんのおみそ汁」です。
とりわけ思い入れの深い作品となりました。
上梓するにあたり、新潮社、『旅』編集部の伊熊泰子さん、文芸編集部の森田裕美子さん、新潮社装丁室、装画の満岡玲子さんはじめ、たくさんの方のお力をお借りし、お世話になりました。
本の誕生にかかわってくださったすべての方々に、心からのお礼を申し上げます。
本当に、ありがとうございました。
読み終わった時に、少しでもおなかがぽかぽかと温かく感じていただけましたら、幸いです。
また、次の作品でお目にかかれますよう。
2011年 10月末日
小川糸